長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。無愛想で偏屈な松ちゃんだが、なぜか多くの若者に慕われている。そんな彼の元に新たにたどり着いたのは70歳を超えた老人のバイク乗りだった。
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第35話「老将W」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@ロレンス編集部

皆に溶け込むおじいちゃん、杉本シゲル(シゲさん)

私、リナ。松ちゃんの家に向かう途中で出会ったへんてこなおじいちゃん、なんだか松ちゃんと意気投合しちゃって、今日はみんなでバーベキューしてる。なんだかな・・。

おじいちゃんの名前は杉本シゲル。みんなは自然とシゲさんと呼ぶようになった。聞けば71歳なんだって。でも体格がよくて、結構若く見える。シゲさんはブロックで組み立てた手製のコンロに手際よく炭を起こし、金網を乗せると串に刺した鶏肉を焼き始めた。

画像1: 皆に溶け込むおじいちゃん、杉本シゲル(シゲさん)
画像2: 皆に溶け込むおじいちゃん、杉本シゲル(シゲさん)
画像3: 皆に溶け込むおじいちゃん、杉本シゲル(シゲさん)

「シゲさんて前なにやってた人?」ビールで機嫌がいいソウルスピード(って自称してるけど、本名知らない。興味もないけど)がシゲさんに訊いた。
「ん 俺かあ」とシゲさんは串を焼きながら曖昧な返事をする。まっ、昔のことはいいじゃないの、って感じで。

いつもは人当たりがいいとはとても言えない松ちゃんでさえ、シゲさんには愛想がいい。「シゲさん、ここに住んでみる?」なんて言っちゃったりしてる。私的にはなにそれ、って感じ。これ以上、松ちゃんと私の間に割り込むのはやめてよ、だわ。

笑顔で動揺を隠した松ちゃん・・・

そんな私の気分なんて全然知っちゃいないだろうけど、シゲさんは松ちゃんの言葉に「いいねェ」と笑うとヒトシのほうを向いて、なあ、と声をかけた。

「アンタもバイク乗りじゃないか。いろんなバイクに乗るといい。バイク以外のこともバンバンやるといい」

そりゃいろいろとやってみたいけどョー、とヒトシは浮かない顔で答えた。「金もないしヨ」
ヒトシらしい答えだなーと私は密かに思ったけど、シゲさんは少し苛立ったような表情で「だーから」と言った。「急ぐんじゃないョ。結果は急いじゃいけない」

画像1: 笑顔で動揺を隠した松ちゃん・・・

すると松ちゃんが下を向いたまま、ぽつりと言った。 「俺は結果が早く欲しい」

画像2: 笑顔で動揺を隠した松ちゃん・・・
画像3: 笑顔で動揺を隠した松ちゃん・・・

「アンタはコレが結果なんじゃないのか」家屋を指差しながら、シゲさんが不思議そうな顔で訊く。
いろいろやった挙句に、この場所にたどり着いたんじゃないのか、という率直な疑問だったんだと思う。好きなことをやりたいと思った結果が、ここでの暮らしなんじゃないのか?という質問でもあったのだろう。

画像: 自分より一回りも上のバイク乗りの一言に衝撃を受ける松ちゃん・・・ www.motormagazine.co.jp

自分より一回りも上のバイク乗りの一言に衝撃を受ける松ちゃん・・・

www.motormagazine.co.jp

「あははっ。松ちゃんはコレでいいと思うけどなァ・・・」と、何も考えてないヒトシが笑う。私はすかさず、ダメよ、と口を挟んだ。「またネーム通らなかったんだから」

そう言って松ちゃんをみると、思った以上に暗い顔をしてるから、私は慌てた。「あっゴメン、落ち込むなよォ」

松ちゃんは力なく笑ったけれど、内心はおだやかじゃないんだな、と私は悟った。
ネーム通らなかったこと?それともシゲさんの言葉がこたえたの??

ここの暮らしが今の自分の結果だと思いたくなかったの?
ここにいる松ちゃんを、私は好きになったのに?

(続く)

果たして松ちゃんの心情は?ぜひ本誌でお確かめください。

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