米国人もほんとは銃規制強化法案を可決させたいんだな、と哀しくもホッとする気分にさせてくれる一本『女神の見えざる手』。
銃規制強化法案可決を目指す女ロビイストの戦い方とは
エリザベス・スローンは超凄腕のロビイスト。一流ロビイスト会社で辣腕を振るっていたが、銃規制強化法案潰しのためのロビー活動の依頼を断ったことで会社にいられなくなり、転職する。
転職先は当の銃規制強化法案の通過を目指す三流ロビイスト会社。しかし、彼女は絶対的な勝利を目指して活動を開始する。
しかし、法案通過に必要な議員数を抑えかけたとき、敵は彼女個人をターゲットに定め、ロビイストとしての彼女の違法性を訴え、評判を落としにかかってきた・・・。
銃規制強化法案という、米国でもっともセンシティブな政治議題をテーマに、美しくも超男らしい美人ロビイストの冷酷なまでの戦い方を描く、社会派サスペンス。
銃乱射による被害が続く米国社会の闇と対峙するため闇に落ちる女性の話
銃規制については政治問題でもあるので、あまり詳しくは触れない。僕自身は即刻銃の所持自体を禁止すべきと思うが、他国のことでもあるし、憲法(修正第2条 武器保有権)で銃を持つ権利を保証するというならば、ここで何かを言うつもりはない。
本作でロビイストが戦う争点である銃規制強化法案も、実際には銃所持を禁止しようとはしていない。ただテロや犯罪を犯す恐れのある人間への販売の禁止など、購入に対する制限を設けようとするだけだ。しかしそれでもこの法案を通すことは容易ではなく、NRA(全米ライフル協会)などの豊富な資金を持つ団体に支えられた議員たちが法案通過を阻む。(事実、トランプ大統領は、相次ぐ悲劇を前にしても及び腰を隠さない)
結果として、本作の主人公であるスローンは、盗聴や24時間監視など違法な手段によって集めた証拠や情報で勝負せざるを得ない。いや、もともと勝つために手段を選ばないのが彼女なのだが、そんな彼女でなければ、勝てない勝負であると本作はこの法案の是非について表現しているのである。
「闇を覗く時、闇もまたあなたを覗いているのだ」とニーチェは言ったが、その通りの展開、というより、スローンは闇に飲み込まれることを承知の上で闇に入っている。そうでもしなければ勝てない、というある種の諦めというか、苦悩がこの映画を作った者たちの源泉なのだろうと思う。
本作のヒロインを演じるのは、ジェシカ・チャスティン。『ゼロ・ダーク・サーティ』で第70回ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞した素晴らしい女優だ。そして、演技もさることながら、本作では男勝りの冷酷なロビイストでありながら見る者を惹きつけてやまない美しさを見せている。