超絶ハンドスピードを誇るリナレスと、変幻自在のフットワークを持つロマチェンコの、スピードスター対決に注目が集まったが、結果はロマチェンコの10ラウンドKO勝ち。
リナレスはロマチェンコにカウンターを当ててダウンを奪ったものの、それ以降慎重になったロマチェンコが、冷静にリナレスにダメージを与え、完全に攻略した。
マディソン・スクエア・ガーデン(NY)
高速対決!ハンドスピードのリナレスvs神速ステップのロマチェンコ
2007年にフェザー級の世界タイトルを奪取以来、スーパー・フェザー級、ライト級の3階級を制したホルヘ・リナレス(1985年8月22日 ベネズエラ生まれ)の戦績はこれまで47戦44勝27KO 3敗。
対するロマチェンコ(1988年2月17日 ウクライナ生まれ)は11戦10勝8KO 1敗。
現在世界タイトルマッチでは9連勝(7KO)と絶好調。完成され尽くしたとも言われる高いボクシングスキルと、右へ左へと変幻自在にポジションを変えながら速い連打を打ち込むそのスタイルは、ハイテク とさえ称され、いまやパウンド・フォー・パウンド(階級を超えて≒同じ体重だったとしたら、という仮定の上で 最強と思われるボクサーを選出)ランキングではゴロフキンに次いで2位とも言われる高い評価を得ている天才サウスポーだ。
身長差はリナレスが173cm、ロマチェンコは170cmと、若干リナレスが上。
下馬評では、ロマチェンコ優位とされていたが、体格差を生かしてリナレスがロマチェンコの出入りを抑えて速射砲を浴びせることができれば戦況はどうなるかわからない、という見方もあった。
ともかく、全階級を通して、例外的なスピードを持つ、まさにスピードスター同士の激突とあって、世界的な話題を集める試合となった。
こちらが挑戦者のロマチェンコ。
見ての通り、涼しげな瞳を持つイケメンだ。
こちらがリナレス。同じくイケメン。日本の帝拳がマネージメントをしている。
速さと速さがぶつかり合う、ハイレベルの試合展開
試合は、序盤から足を止めない接近戦で距離を潰したロマチェンコが、リナレスとの体格差をものともせず優位に展開。リナレスはいつもの速いワンツーで距離を取ろうとするが、ロマチェンコの足は止まらない。
なすすべなく追い込まれていくかと思われたリナレスだったが、6R にお得意のノーモーションの右カウンターを顔面にヒットさせ、ロマチェンコからダウンを奪う。リナレスを舐め始めていたロマチェンコとしては冷水を浴びさせられたような一撃だったろう。
それでもダメージはあまりなく、ロマチェンコは7R以降、再び速い出入りでリナレスを翻弄し、手数でポイントを重ねる。
それにしてもロマチェンコのフットワークは華麗の一言だ。前後の移動は当たり前として、常に円のように右へ左へと態勢を変え、一瞬でも同じところにいることがない。敵の正面に立つ、ということがほとんどないのだ。
対してリナレスは、脚のスピードではロマチェンコに劣るものの、ロマチェンコの動きに合わせて、できるだけ相手を直線的に捉えられるよう最小限のステップで敵を追う。後半にきて、ハンドスピードが上がり始め、回転の早い連打をロマチェンコに浴びせるシーンも多々見られるようになってきたのは、その工夫の賜物だ。
しかし、そのリナレスの我慢と工夫もやがて限界が訪れる。8, 9Rと、ロマチェンコへの対抗策を見出したかのように見えていたリナレスだが、10Rに入って、ついに失速。それまで蓄積されていたダメージや疲れが一気に吹き出るような感じで崩れ落ちた。最後にロマチェンコが放った左ボディーブローが決め手にはなったが、むしろ、それまで受け続けたロマチェンコからの強烈なプレッシャーが飽和点に達した、という感じを受けた。
スピードスター対決を制したロマチェンコはこれで12戦目にして3階級制覇。史上最速で3階級王者となった。