ホンダにまつわる豆知識を紹介する当連載第5回は、1950〜1960年代のホンダ2輪車の車名にこぞって使われた記号「C」について解説いたします。

初期の車名はアルファベット順でした・・・

過去記事でも何度か触れましたが、ホンダが初めて製品化した2輪車は1947年に完成したA型でした。この後、B型、C型、D型、E型、そしてカブの名が初めて使われたF型・・・と続くことになります。

1950年代は日本に2輪製造業者が150〜200も乱立したと言われる「戦国時代」でした。今は大企業のホンダも、当時は企業としての生き残りに必死の会社のひとつにすぎませんでした。自社製品の名前について考えることに時間を費やすよりも、もっと他のこと・・・開発や販売網整備などに、時間を費やすことが大事だったに違いありません。

それゆえに、シンプルにアルファベット順にホンダは2輪車製品の名前をつけていったのでしょう。でもこのままでは、やがてZ型に達したらつけるべき名前が枯渇します。そこで、1957年よりホンダは新しいネーミングの法則を作ることにしたのです。

「C」はサイクルのC・・・え、モーターサイクルなら「M」じゃないの?

この名前・型式の整理を担当したのは、新部署の「統制課」でした。統制課では名前・型式の整理だけでなく、部品加工、製図基準の設定など、ホンダの品質規格であるHES(ホンダ・エンジニアリング・スタンダード)の制定などを同時に行ったそうです。

それまでのホンダは創業期から、各技術者が好き勝手に図面を描いていたような状況だったため、管理や効率の面で問題がある・・・ということから、統制課による管理が導入されたわけなのです。

画像: ホンダ初の2気筒車のドリームC70(250cc、1957年)は、初めて「C」と排気量レンジの数字を組み合わせた車名に用いたモデルでもありました。 www.honda.co.jp

ホンダ初の2気筒車のドリームC70(250cc、1957年)は、初めて「C」と排気量レンジの数字を組み合わせた車名に用いたモデルでもありました。

www.honda.co.jp

話を車名・型式に戻しましょう! 1957年当時、ホンダはまだ2輪車の製品しかありませんでしたが、将来の発展を見越して2輪車以外の製品の型式も意識して設定されました。

つまり、4輪車はオートモビルの「A」、ボートの「B」、2輪車はサイクルの「C」、そして「D」は使われず、エレクトリックの「E」、耕運機などのファーマーの「F」・・・が設定されたワケですが、なんで2輪車はモーターサイクルの「M」じゃないのか? 「C」じゃサイクル、自転車になっちゃうじゃん・・・? という疑問を浮かべる人もいるでしょう。

これについては、「M」はすでにスズキなどの他社が2輪車の名称に使っていたから、サイクルの「C」を使った・・・という当時の関係者の証言を聞いたことがあります。同様にスクーターの「S」も、この分野での国内の先達である富士重工ラビットスクーターが「S」を車名に使っていたから、ホンダはモータースクーターの「M」を使った、とも言われています。

画像: 富士重のラビットスクーター(写真は150ツーリング)は、初代モデルから車名の頭文字に「S」を用いています。 en.wikipedia.org

富士重のラビットスクーター(写真は150ツーリング)は、初代モデルから車名の頭文字に「S」を用いています。

en.wikipedia.org

ン・・・? ちょっと納得いかないな・・・?

この説明、ちょっと腑に落ちないのは、なんで「M」は他社が使っているから2輪車には使わないのに、ホンダ製スクーターには「M」使うのか・・・? ということです。同様に「C」はホンダの2輪用に使うけど、三菱シルバーピジョンは戦後間もない時期から車名にずっと「C」を使っていたよね? スクーターではあるけど・・・と思ってしまいます。

画像: 1946年型シルバーピジョン。こちらは「C」を車名の頭文字に使い続けています。 www.mitsubishi-motors.com

1946年型シルバーピジョン。こちらは「C」を車名の頭文字に使い続けています。

www.mitsubishi-motors.com

この辺を考慮して推察するに、他社に使われていた・・・ということよりも、A、B、C・・・というアルファベットの並びを意識した・・・と見る方が2輪用に「C」を採用した理由としては自然だと思います。なおこの頃から試作には「X」を使い、製品化されるものとは明確に区別するようになったそうです。

ともあれこのルールの下で「CB」の車名が生まれ、長年CBの名が様々なモデルに使われ、今日に至っているワケですね。1960年代途中からはカテゴリーの細分化により、「C」からはじまらない車名のホンダ量産車がどんどん登場するわけですが、その辺の話はまた稿を改めて解説したいと思います。

画像: 1969年、初めての国産量産4気筒750ccとして登場したドリームCB750Fourは、名機にあげられるモデルです。 en.wikipedia.org

1969年、初めての国産量産4気筒750ccとして登場したドリームCB750Fourは、名機にあげられるモデルです。

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