日本カルチャーへのリスペクトから生まれたイタリア発のダークヒーロー・エンタテインメント。
タイトルの『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は日本公開用ではなく、イタリア語題と共に併記される正真正銘の原題である。
1975年に日本で、1979年にイタリアでも放送された永井豪原作のアニメ「鋼鉄ジーグ」へのオマージュ
『鋼鉄ジーグ』をご存じだろうか?現代に蘇った邪馬台国と戦うサイボーグ司馬宙(シバヒロシ)を主人公としたアニメーションで、司馬宙が巨大ロボットの頭部に変身して、ロボットパーツと磁力によって合体してジーグとなる。
日本ではけっこうマニアックで知らない人が多いと思うのだが(僕はけっこう好きなのだが)、この作品は実はイタリアではけっこう人気を博していたという。本作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』のがブリエーレ・マイネッティ監督もその一人。ジーグへの熱い想いが、イタリア映画初の本格的ダークヒーロー・エンタテインメントを生み出した。
本作を観た鋼鉄ジーグの生みの親、永井豪先生も「ガンバレ、君は鋼鉄ジーグだ!!」とエールを送っている。
「犯罪と汚濁まみれのローマの下町で、アニメヒーロー『鋼鉄ジーグ』に憧れる女性の為、正義の戦いに立ち上がる”男の純情”が美しい!! 「ガンバレ、君は鋼鉄ジーグだ!!」」
自分を鋼鉄ジーグと呼ぶ、精神を病んだ女性を愛してしまった純情なチンピラが、正義を心に宿していく・・・
舞台はテロが相次ぐ不穏なローマの下町。
主人公のエンツォはケチな仕事を繰り返して小銭を稼ぐチンピラだが、あるとき逃走中に放射性物質を含む不法廃棄物を大量に浴びてしまい、超人的なパワーと頑強な肉体を得る。その力を使ってATM強盗をしていたエンツォだったが、世話になっていた”オヤジ”ことセルジオが闇取引の失敗で命を落としたことで、庇護者を失った娘アレッシアを匿わざるを得なくなる。
そのアレッシアは、実は長年父親に性的な虐待を受け続けていた。そのおかげでかつて放映していたスーパーヒーローアニメの『鋼鉄ジーグ』の世界に没頭し、現実を認識できない精神状態になっていた。アレッシアは自分の窮地を救ってくれたエンツォにジーグに変身する主人公司馬宙(シバヒロシ)を重ね合わせて、彼をヒロと呼ぶようになる。
徐々に心を重ね合わせていくエンツォとアレッシアだったが、セルジオの失敗のためナポリに拠点を持つ犯罪組織に、多額の借金を負うことになった不良グループのリーダー ジンガロが、起死回生のためエンツォの持つスーパーパワーを狙って、アレッシアを誘拐する。
ジンガロはナポリの組織に追われながらも、世間の注目を浴びるような超一流の悪党になることを目指してやまない狂信的な若者で、合理的な行動や功利的な犯罪とは無縁の、衝動的な犯罪者。
果たしてエンツォはアレッシアを救い出すことができるのか。
愛のために悪の道から更生し、正義を目指す一人の男の純情を描いた傑作
本作は無軌道で信念のカケラも持ち合わせていない、だらしないチンピラが、困っている人を救える力を得たことをきっかけに、愛する人からの信頼に応え、正義の行為を志していく過程を描いている、ヒーロー誕生物語だ。
バスを持ち上げ停止させてしまうほどの剛力や、銃で撃たれてもすぐに回復するその力は、デッドプールを彷彿させる。愛する女性を守るために正義の心を宿した主人公は、やがて街全体を救おうと考える強い意志を身体中に漲らせはじめる。
交通事故で死に瀕する少女を助けた彼は、見物人に名前を問われて「シバヒロシ」だと名乗る。自ら鋼鉄ジーグになる、という決意を示すのだ。
アクション映画としてはおそらく低予算で、CGも少なく地味なものだが、ストーリーは観るものを納得させるだけの説得力と、強く共感させるエモさがある。イタリアでは大ヒットしたそうだが、ぜひとも続編を期待する。SFアニメをモチーフにしながらも、愛のために悪の道から更生し、正義を目指す一人の男の純情を描いた傑作である。