士郎 正宗原作の、日本を代表するSFコミック「攻殻機動隊」の実写化。というより、1995年11月に公開された押井守監督のアニメ版(『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』)の実写化というべきか。
主人公草薙素子役にスカーレット・ヨハンソンが抜擢されたことでも話題。さらに素子のボス公安9課の荒巻大輔をビートたけしが心地よく演じている。

スカーレット・ヨハンソンの草薙素子も◉
ストーリーと、押井守版との違いを楽しもう

本作の主人公、全身を義体化された(脳以外は機械化された、またはサイボーグとなった)女性 草薙素子は、高度にネット化された都市で起きるサイバーテロなどの犯罪を取り締まる公安9課に所属する特殊捜査官。
強化された運動能力や光学迷彩などの最先端技術を用いて、ずば抜けた活躍を見せる彼女だったが、自分のアイデンティティの喪失感に常に悩まされている。自分が生身の人間だった頃の記憶は、後から植えつけられたデータにすぎず、実は自分は最初から作られたロボットなのではないか?という恐ろしい疑惑と不安を彼女は捨てきれずにいるのである。

ある意味、AIが知性だけでなく感情を持ったとき、自分は生命体であると考えるのではないか。ならば自分はAIによって動く機械なのではないか、という疑問に対して、彼女は自分を納得させる答えを見つけることができないのだ。作中では、生命としてのコア=魂をゴーストと呼ぶが、そのゴーストが本物なのか、人工的なものではないのか?とつい疑ってしまう素子の不安を軸にストーリーが展開する。

日々の激しい戦闘を伴う任務をこなしながら、内面の不安を押し殺して生きる素子を、スカーレット・ヨハンソンが極力表情を出さない非人間的な美しさで、絶妙に再現している。
(彼女は日本人女性の平均身長くらいの、比較的”小柄な”女性であり、光学迷彩のためのレオタードのような衣装になるとズングリして見えるのがやや残念。その意味ではワンダーウーマンのガル・ガドットのようなモデル体型の女性を選んだ方がよかったかも・・・)

画像: 草薙素子をスカーレット・ヨハンソンが演じる。街並は名画ブレードランナーにも通じる欧中日がまざりあったようなカオスなムード ghostshell.jp

草薙素子をスカーレット・ヨハンソンが演じる。街並は名画ブレードランナーにも通じる欧中日がまざりあったようなカオスなムード

ghostshell.jp

名前からして日本人である素子を白人そのもののヨハンソンが演じることを疑問視する声があったが、劇中でなぜ彼女が素子であるのか、という理由や背景がちゃんと説明してある。
ただ、押井守版では、アイデンティティを求める素子が最終的に選ぶ道が巨大な電脳空間そのものと融合することであったことに対し、本作では彼女が実際に存在していた人間である証拠を見つけることで、自分のゴーストが本物であることへの安堵を得るというのが、元々の攻殻機動隊ファンにはちょっと違和感があるところかもしれない。

ただそうした違いは、ああ違うのね、と素直に受け入れて楽しむのが正解と思う。

世界観や退廃的な都市のムードなど忠実に再現。

SF作品としては、本作は興行収入そのものはよくなかったらしいが、それなりに良い出来だと思う。CGもアクションも上等だし、押井守版にも通じる退廃的な感じや、科学は発達しているものの生命としては衰え始めた文明の混沌さ、自分が何者なのかを疑う素子の重苦しい憂鬱などを、確かに忠実に表現している。

傑作である、とまでは言わないし、どちらを観るか?と問われれば押井守版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を推すが、それでも観て十分に納得できる作品だと思う。

画像: 『ゴースト・イン・ザ・シェル』 | ファースト・トレーラー www.youtube.com

『ゴースト・イン・ザ・シェル』 | ファースト・トレーラー

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