フェイクニュースが取りざたされる現在、ニュースメディアやジャーナリストの存在意義や使命について、改めて考えさせられる一作。
2004年の米国を揺るがせた”フェイクニュース”
CBSニュースの敏腕プロデューサーメアリー・メイプス(演じるのはケイト・ブランシェット)は、ニュース番組「60ミニッツ」でブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑を報じた。ブッシュはベトナム戦争時代、大物政治家であった父親(CIA長官第43代副大統領、第41代大統領のジョージ・H・W・ブッシュ)の圧力で兵役を怠っていた、というのである。
ところが、疑惑の証拠として提出された文書が偽造であることがわかり、スクープの関係者は苦境に追い込まれることになる。
このスクープを報じた番組のアンカーマンは、当時最も著名なジャーナリストの一人であったダン・ラザー(演じるのはロバート・レッドフォード)。彼は事件の責任を取らされることになり番組を降板する。さらにこのスクープの関係者のほとんどは解雇や降格の憂き目に遭う。
ダンやメアリーらは、捏造された文書を撤回したものの、ブッシュの疑惑自体には確信を持ち、信念を曲げずに疑惑の証明に懸命の努力を続けるが、権力の介入を恐れる周囲からの圧力や誹謗中傷などに晒されるー。
横暴への杞憂にまかせて報道の自由を否定してしまうか?
大統領vsマスメディアの対立という構図は、最近のトランプ政権でもおなじみのような感じがするが、本作はTwitterもスマートフォンもない、2004年の話であり、実話をベースに作られた作品だ。
報道、そして取材や調査のプロであるはずのベテランジャーナリストたちが、捏造文書に踊らされて墓穴を掘ったのは、功名心ゆえの勇み足だったのか、それとも毀誉褒貶が激しかったジョージ・W・ブッシュを再選させてはならないという一種の義侠心ゆえのことだったのかはわからない。結果として彼らはブッシュを追い詰めることはできなかったし、スクープが誤報であるという調査結果を覆すこともできなかった。
ただ、ブッシュは再選したものの、僕の記憶では軍歴を詐称したのは事実だったのではないか(そしてそれをうまく最後まで隠し通せた)と感じていた印象がある。この事件は21世紀最大のメディアの不祥事 とされるが、反面 権力の不正を暴こうと立ち向かったものの敗れた栄光なき勇者たちへの鎮魂歌でもあるのかもしれない。
単なる勇み足で大統領に選ばれるべき有用な人物の足を引っ張ろうとした愚挙だったのか、それとも正義のために権力に刃向かった悲運な敗者の話なのかは、正直わからない。わからないが、一つ言えることは、これによって報道の自由を制限させるようなことはあってはならない、ということだ。
フェイクニュースが取りざたされる今だからこそ、もう一度そのことを考え、メディアのあり方と重要性を再認識するべきではないか。本作はそのためのきっかけとして非常に有用な一作である。