プラダが制作・公開したショートムービー(12分47秒)「PAST FORWARD」。2016年9月に公開された。
意味はわからない、わかる必要もない美しい映像
欧米のラグジュアリーブランドが、そのブランドコンセプトを端的に示すためにショートムービーをリリースすることはよくある。日本のそれが比較的 商品にフォーカスしていたり、やや饒舌であることに対して、彼ら(特にやはりヨーロッパ人)は、やはりリュクスというものをよくわかっている。説明が不要だからこそのリュクスであり、ブランドは気配である。
プラダの「PAST FORWARD」はまさしくその気配を表現した一本だ。監督は『世界にひとつのプレイブック』で知られるデヴィッド・O・ラッセル。3人の美しい女性の視点がまるで万華鏡のように入れ替わり、パラレルワールドのような不思議な世界を描き出している。
ストーリーはあるようでないが、ないようである。ただ雰囲気だけのそれなのだが、そこに抑えられ計算し尽くされたクールとリュクスがまるで空気の流れのように観る者の脇を通り過ぎていくかのようである。
撮影されたのはLAの美術館「The Broad」
3人が生活する超絶オシャレなアパートメントも、パパラッチに追われて逃亡する空港のシーンも、すべて同じ場所で撮影されているのだが、それはロサンゼルスに2015年に設立された美術館「The Broad」で行われたという。
「Past Forward」の登場人物たちの衣装や小道具はもちろんすべてプラダだが、その逸品たちに負けない空気感を漂わす空間は実に美しい。冒頭で述べた、ブランドの気配を濃密に漂わせながら、それをきっちり押さえ込み暴走させない強さを持ったアーキテクチャーの力強さも本ショートムービーをさらに上等にしている立役者である。
直球型もあるが、品位は落ちない。
ちなみに、同じくスタイリッシュでも、コメディタッチに仕上げたショートムービーも楽しい。
この作品「A THERAPY」では、ベン・キングズレー演じるセラピストのオフィスに、ティム・バートン作品では常連の女優ヘレナ・ボナム=カーター演じるセレブな女性が現れ、早速心の内を彼に打ち明ける。
しかし、セラピストの注意は彼女の話ではなく、彼女が着てきたプラダのコートにむかってしまう。やがて我慢できずに彼はそのコートを羽織ってみるのである。
男でもひきつけられる上質。それをユーモラスに描いた良い作品である。ダイレクトにアピールしながらも品位を保つ作りは実に楽しい。