フェラーリ初の4WDシステム搭載車「FF」が大幅改良され、それに伴いネーミングも「GTC4ルッソ」に変更された。しかしこのモデル、ただのFFのマイチェン版だと思っていると真価を見逃す。
(Motor Magazine2016年9月号)
どこにだって行ける。そしてどこに行っても楽しいフェラーリ
ついにフェラーリも〝四駆〞を作るのか!というニュースはとても衝撃的だった。そのフェラーリ初の〝四駆〞「FF」が大幅改良を機に、「GTC4 Lusso(ルッソ)」に名称変更された。ただしこのクルマ、単なる「FF」のマイチェン版だと思っていたら大間違いだった。
ちなみに「Lusso」とはイタリア語で「贅沢」という意味があり、GTC4ルッソの名は、1960年代前半に生産された250GTCベルリネッタ ルッソと60年代後半に生産された2+2モデルの330GTCに由来するという。つまりGTC4ルッソは、4シーターで〝四駆〞、贅沢なフェラーリということだ。これは興味が湧かないはずがない。
そのGTC4ルッソの国際試乗会がイタリア北部、オーストリアとの国境に近い南チロル地方で行われた。ここではその詳細を報告する。
まず心臓部だが、6.2LV12気筒自然吸気エンジンをフロントに搭載している。最高出力は690ps/8000rpm、パワーウエイトレシオは2.6kg/psで最高回転数は8250rpmである。また最大トルクは697Nm/5750rpmで、この強大なトルクの約80%はわずか1750rpmから発生する。
ではFFとGTC4ルッソはどう違うのか。エンジンは同じV12の排気量6262ccだが、ピストンクラウンのデザインを改良することで圧縮比をプラス1.1の13.5まで上げ、最高出力はプラス30ps、最大トルクはプラス14Nmとなった。これにより0→100km/h加速はFFより0.3秒短縮され3.4秒に、最高速は335km/hを達成した。
助手席に専用のディスプレイが用意されシステム操作が可能
ボディサイズも比較する。FFよりも全長はプラス15mmの4922mm、全幅はプラス27mmの1980mm、全高は1383mm、後席のレッグルームはプラス16mmとなる。さらにラゲッジルーム容量は800Lを確保し、収納スペース容量もFFより50%以上拡大している。つまり広さ、使い勝手とも向上させ、多用途性を拡大しているということだ。
また多用途性の面では、後輪も操舵して4輪を統合制御する「4RM-S」を採用することであらゆる路面状況でフェラーリのハイパフォーマンスを実現しているのもこのGTC4ルッソの魅力と言っていい。GTC4ルッソは雪道でも、ウエット路面でも、優れた操縦安定性と車両コントロール性を実現し、ドライバーは安心してその性能を存分に引き出すことができるのである。
ドライバーズシートに座るとそこにはフェラーリの世界が広がっていた。エンジンのスタート/ストップスイッチやディスプレイや電話、ワイパーの操作スイッチ、ウインカーなどが集約されたステアリングホイールなどフェラーリそのものだ。さらにウインカースイッチがFFよりも少し長くなって使いやすくなるなどの改良も施されている。
インストゥルメントパネルは、左側にビークルダイナミックアシスタンスやトリップコンピューター、タイヤ空気圧監視システムなど各計器類が表示できる5インチTFTディスプレイ、中央に回転数やギアポジション、右側にデジタル速度計、地図、ラジオ/メディアなどが表示される5インチのTFTディスプレイが配置される。そしてそれらの表示切り替えはステアリングホイールのスイッチからできるのである。
さらにコクピット中央には2分割表示機能やApple CarPlay も使える10.25インチのタッチ式ディスプレイも用意する。操作ロジックはスマートフォンと同じなので地図の縮尺変更もピンチイン、ピンチアウトで可能だ。また「デュアルコックピット」コンセプトを採用し、助手席にあるグローブボックス上の操作パネルからも各種表示の切り替えや各メディアの操作ができるなど、ドライバーとパッセンジャー両方の快適性を両立しているのも特徴だ。
インテリアはそこに座ると思わずため息が出てしまうような高級感に溢れている。大型で快適なラップアラウンドシートに加え、やわらかい素材で構成されたアームレストなどフェラーリは何が高級なのか、どこに贅を尽くせばいいのかをさすがに理解している。ドライバーズシートでもパッセンジャーシートでもGTC4ルッソはどこであっても快適な空間であり、贅沢な時間を過ごすことができるのである。次回は試乗した印象などを中心に報告する。文:千葉知充(本誌)/写真:フェラーリ ジャパン