長く付き合いたいと思う
マセラティ快進撃の原動力になっているギブリには、ディーゼルエンジン搭載モデルが設定されている。
試乗車が用意されたということで、さっそく乗ってみたが、その懐の深さ、クルマと一体感が得られることに感心した。(Motor Magazine 2016年7月号)
マセラティと言えば、100年の歴史を持つスポーツカーメーカーである。過去を振り返ればモータースポーツにおける活躍ぶりを知ることができる。しかしその歴史は波乱に満ちたもので、親会社が頻繁に変わるなどして、そのブランド力を十分に活かすことができない時代が長く続いた。
そこに変化が訪れるのは2004年にフィアットのCEOにマルキオーネ氏が就任して、翌05年にフェラーリ傘下からフィアット直轄になってからだろう。そして100周年を迎える14年へ向けて、具体的なプロダクトとして新しいマセラティが見えてくるのだ。
それはまず11年のフランクフルトモーターショーでお披露目したコンセプトカー、マセラティ初のSUV〝クーバン〞である。これは後にレヴァンテとなって発売されたモデルであることは言うまでもない。
さらに13年に登場した3代目となる新生ギブリ。このモデルは発売2年目の14年には、なんと2万3500台もの台数が販売された。ギブリが登場する前の12年はマセラティの世界販売が6300台だったことを考えると、驚異的な売れ行きとしか言いようがない。その後、売れるマセラティの3分の2はギブリという状況である。
そして、使われる技術においても変化が見られる。それがディーゼルエンジンである。かつてはスポーツカーブランドであるマセラティがディーゼルを使うことなどあり得ないと考えられていた。それはフェラーリと同レベルの話である。 しかし、FCAを率いるマルキオーネCEOはマセラティをさまざまな新しいチャレンジによって、確固たるプレミアムブランドに育て上げようとして、敢えてディーゼルエンジンを導入したのである。
いろいろなシチュエーションを走ってわかった懐の深さ
マセラティ初のディーゼルエンジンはイタリアのVMモトーリ社と共同開発したものだ。フェラーリF1のエンジンデザイナーを務めたことがあるディレクターの下で、マセラティのために専用開発された。それだけに応答性の良さを重視し、また重量も極力抑える方向で開発が進められたという。さらに演出にも抜かりはない。ディーゼル特有の燃焼音を大幅に低減した上で、テールパイプの脇に取り付けられたふたつのサウンドアクチュエーターが気持ちいい排気音を奏でる。
この3リッターV6DOHCディーゼルターボの最高出力は275ps/4000rpmで最大トルクは600Nm/2000-2600rpmとスペックは標準的なレベルと言っていいだろうが、いろいろなシチュエーションで走ってみると、かなり懐が深いと実感した。
都市部において低中速で走るときには、アクセルペダルの踏み込み量に非常に忠実で滑らかに反応してくれる。狭い路地などでも緊張感は少なく、ゆったりと安心して走れる。そして高速道路でちょっと踏み込んでみると、一気に覚醒してグイグイと加速するような印象だ。試乗車はオプションのスカイフックサスペンション装着車だったが、足まわりは非常にしなやかであるし、どういう状況においてもギブリディーゼルはドライバーの手の内にあり一体感を得られるのだ。
実はこの試乗は仕事での移動などを含めて5日間ほど行うことができた。そして、時が経過すればするほど馴染んで行った。愛車にするにはこういうクルマがいいと実感した次第だ。ライバルとなるプレミアムブランドで同クラスのディーゼルエンジン搭載車はあるが、懐の深さという点ではギブリが一枚上手である。
ただ、日常の使い勝手でひとつ気になるのは全幅が広いことだ。クアトロポルテと5mmしか違わない1945mmもあるのだ。いつもの慣れたところへ駐車するときに、何回か切り返しをすることになり、その幅の広さに気づかされた。また、そのぶん室内空間に余裕があることも事実だ。リアシートはゆったりと余裕十分である。
さて、このギブリディーゼルの車両価格は933万円だ。Eクラスや5シリーズと比べると高いのは事実だが、それがあまり気にならないのであれば、ぜひ一度、試乗してみることをお勧めする。最新マセラティの良さがよくわかるはずだ。(文:荒川雅之/写真:永元秀和)