2007 年に登場した初代XF は全世界で145 もの賞を獲得し、2014 年までに約28 万台を販売するヒット作となった。そのジャガーのラグジュアリーサルーンが2 世代目になった。新型は美しいプロポーションと軽量モノコックボディ を手に入れ、さらに新開発のディーゼルエンジンを揃えたラインナップや先進の運転支援システムの装備など大きな進化を遂げている。(Motor Magazine 6月号)
XFとXE 国内ロードインプレッション
昨年夏のブランニューモデル、XEのデビューからまだそれほど経っていないのに、今度は主力のミッドサイズセダン、XFのフルモデルチェンジである。
ジャガーの商品攻勢、いよいよ本格化してきた。ブランドへのエントリーとしてXEが登場したことで、XFは上級移行を果たしたとジャガーは謳う。今回は2グレードに乗る長距離テストドライブで、その実力を確かめることができた。
最初にキーを受け取ったのは最高出力240psの2Lガソリンターボエンジンを搭載するXFプレステージ。実車を目の前にして、まず感じたのは、スタイリングがとても伸びやかで、格段にスタイリッシュになったということだ。
意外にも4965mmの全長は先代よりも10mm短い。しかしながらホイールベースの50mm延長と、フロントオーバーハングの実に66mmもの短縮、さらには全幅の拡大、全高の低下などが相まって、実に美しいフォルムを描き出しているのである。先代のイメージを継承しながら、すっきりと洗練されたディテールも好印象。個性派ひしめくこのセグメントの中で、きっちりと存在感を発揮している。
軽量ボディがもたらす卓越した走り
見所はデザインだけではない。新しい基本アーキテクチャーを採用したことで、ボディ骨格はついにアルミ化された。正確にはボディ全体の75%をアルミ製とすることで、新型XFのボディは22000Nm/degという驚異的なねじり剛性の獲得と、最大190kgもの軽量化を達成しているのである。
シャシも基本的にXEに倣う。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアが垂直方向のコンプライアンスをソフトに設定しながら高い横剛性の確保を可能にするインテグラルリンク式となる。
ホイールベースの延長は室内空間の拡大に効いている。前席スペースはほぼ現状維持だが、後席はレッグルームが15mm広くなった。しかも、クーペのようなルーフラインを踏襲しながら、頭上空間も27mm拡大しているのだから立派と言っていい。
インテリアは先代から続くクルーザーの船室のように乗員をぐるりと取り囲むような造形を踏襲しつつ、ディテールはすっきりとまとめられている。クオリティも上々である。
メーターはもはやアナログ計ではなく、代わりにTFTモニターを採用。地図を含む様々な表示を任意で選択できる。そしてインフォテインメントシステムにはついに10.2インチタッチスクリーンを使い、スマートフォン感覚の操作が可能な「InControl TouchPro(インコントロール タッチプロ)」が導入された。
かなり完成度の高いXFのインジニウム ディーゼル
先進安全/運転支援デバイスも最新のものが揃う。緊急自動ブレーキ、滑りやすい路面で安定したトラクションを確保するASPC(オールサーフェイスプログレスコントロール)は標準装備。レーンキープアシスト、駐車支援のパーキングアシストも用意される。もはや、この点でも不満を述べる余地はない。
従来と同じく、キーを持って車内に乗り込むと、スタートボタンが心臓の鼓動のように点滅して、押すことを促してくる。エンジンを始動させるとダッシュボード左右のエアベントの蓋が回転しながら開き、ダイヤル式のシフトセレクターがせり上がってきて、すべての準備が整う。
その走りは、とにかく軽快という言葉に尽きる。操舵すると、軽いロールを伴いながら、ノーズが抵抗感なくインに入っていく。そして出口まで、切り足しの必要を感じさせないまま、すんなり立ち上がっていけるのだ。これには優れた基本性能はもちろん、トルクベクタリング・バイ・ブレーキングなどの電子制御の恩恵も、きっと大きいに違いない。
さらにペースを上げ、積極的に荷重移動を意識していくと、本当に欲しい分だけ、わずかにリアがスライドして向きを変えるのを助けてくれる。動きに唐突感はなく、まさに意のまま。全長5mに迫るセダンとは思えないほどの身のこなしには本当に感服してしまった。
エンジンも手応えは上々。全域で段付き感なくトルクがスムーズに出てくるし、パワーの絶対値も十分。吹け上がりも爽快で、しっかりスポーツできた。
溌剌としたXEと上質なXFキャラクター分けは明確である
続いては、XFディーゼル ピュアに試乗した。こちら、最大トルクが430Nmもあるだけに、走り出した瞬間から余裕は桁違い。アイドリング付近でのトルクの落ち込みもなく、ドライバビリティの煮詰めは相当なレベルにある。
騒音、振動の抑えも巧みで、もはやディーゼル云々ということを意識させられることはほとんどない。エンジン自体もそうだし車体側の対策も万全なのだろう。現状、この点では同クラスの中でも秀でているように思う。
しかも、いざ思い切り右足に力を込めれば、トップエンドでは抜けの良い伸び感を満喫することまでできるのだ。新設計のインジニウムディーゼル、完成度は相当に高い。
XFには他にも、最高出力340psを発生する3LV型6気筒直噴スーパーチャージドユニットを積むR-Sport、ポートフォリオ、そしてその380ps版を積む最高峰のXF S が設定される。これらも別の機会に試したのだが、全域でさらに充実したトルクと、マルチシリンダーならではの艶やかな吹け上がりが相まって、しっとり滑らか、しかも力強い走りを楽しめた。
妥協のない英国クラフトマンシップと現代的なデザインの融合した新型XF。
率直に言って4気筒のガソリン、ディーゼルでも動力性能は十分。しかしこれらの6気筒モデルも、価格に見合った価値はちゃんと備わっているなと感じさせたのである。
2台のXFを試したあと、販売が開始されたばかりのディーゼルエンジンを搭載するXEのハンドルを握ることもできた。エンジンスペックはXFと同等で、車重が100kg軽いだけに、その走りは余裕綽々。騒音、振動はXFよりは意識させられるが、力強さが伴っているだけに、すぐに気にならなくなった。
フットワークは登場当初の記憶よりもわずかに落ち着きが出た感じ。とは言え、きわめて正確性に富んだターンイン、ガチッとした横剛性でそれに応えるリアサスペンションが織りなす俊敏な走りは相変わらず最高の喜びをもたらしてくれた。
XFとのキャラクター分けは明確で、端的に言って溌剌としたXEに対して、上質なXFという印象。しかし、その根っこには同じスポーツマインドが流れているのである。
ジャガーはゲームチェンジャー
間違いなく言えるのは、プレミアムセグメントにおいて、ジャガーの存在感がようやく再浮上しつつあるということ。これまでも走りやデザインには定評があったが、最新のインフォテインメント、先進安全デバイスといった部分でもアップ トゥデイトなものが用意されたことで、美点の部分がようやく強い訴求力に繋がり始めたという感は強い。
ブランドとして興味があったという人、あるいはこれまではノーマークだったという人も、今プレミアムカーを選ぶなら、ジャガーを見ずして決める手はない。XEだけでなくXFも含めて、ジャガーは今、この市場の紛れもない〝ゲームチェンジャー〞なのである。