世界でもっとも有名なノート

画像: モレスキン www.moleskine.co.jp

モレスキン

www.moleskine.co.jp

誰もがスマートフォンを携帯し、文字を書くことが少なくなった現代。
紙のノートは時代遅れである。
そう思いはすれ、やはり手書きのノートを手放せない、という人は多いかと思う。どうせ使うならいいものを、と考える人にとって、モレスキンというのは特別なノートになっている。


モレスキンは、Zippoに似ている、と僕は感じる。


モレスキンはメモを取るというだけの単機能の道具だ。一般的にノートというものはそういうものであって、モレスキンもそれ以上でもそれ以下でもない。ノートは、進化の方向として、記録媒体(メディア)である”紙”を入れ替えることができる(バインダー式の)システム手帳のように、紙にはこだわり続けながらガジェットとメディアをアンバンドルする方向と、ガジェット自体もメディア自体もデジタル化していくアプリケーションとしての方向があると思う。しかしモレスキンはそのどちらでもない。


Evernoteなどとの連携をすることで、デジタルとアナログの橋渡しをするような位置付けを選びながら時代を生き延びようとしているが、実際には単なる紙のノートでしかない、ということはかわりない。


Zippoも同じだ。タバコに火をつけるという単純な機能だけの道具であり、オイルライターという古来の方式を変えずに生き延びた、化石のような存在だ。もちろんライター自体がテクノロジーの恩恵をあまり受けずに生存しているローテク製品であり、Zippoが古いからといって、オイルを適時足していく労力を必要とするデメリットはあるにしても、ライター全体の中でも古臭さを辛く思うことはない。


モレスキンとZippoに通じるのは、あまり市場として成長していくことがない環境の中で、技術や利便性などをもって生き延びているのではなく、過去の歴史、というより伝説をブランド化し、本来持っている機能や品質を超える価値を与えようとするマーケティングであり、成功している数少ないブランドの一例であるということだ。


そして、タバコを吸う限りライターは必要だが、メモや記録をするのにノートでなければならないという理由はなく、デジタルガジェットに押されていく、存在意義を消されつつあるという意味では、モレスキンはZippoに比べても厳しい状況にあり、だからこそマーケティングに依存していかなければならないという事情がある。

How do you pronounce Moleskine?
Moleskineをどう発音するか?という、ある意味どうでもいい内容の動画。しかし、こうした意味のなさがブランドを強化している。

www.youtube.com

Moleskineブランドは1997年に生まれ、過去2世紀にわたり、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ、パブロ・ピカソ、アーネスト・ヘミングウェイ及びブルース・チャトウィンという名だたるアーティストや思想家に愛された伝説的ノートブックを甦らせました。旅のお供にぴったりな、頼れる存在このノートブックは、有名な絵画や人気小説が世に出る前の貴重なスケッチ、走り書き、ストーリーやアイデアを記録してきたのです。
モレスキン・ノートブックは、今日のクリエイティブで想像力に富んだプロフェッショナル達のパートナーです。ウェブサイト、ブログ、オンライン・グループ ,及び バーチャル・アーカイブなどのネットワークを通じて、デジタルな世界とも密接なつながりを持つモレスキンは、世界中において現代の放浪的ライフスタイルのシンボルとなっています。

メモを手で書くというアナログへの郷愁

いうまでもないが、モレスキンはデジタルなノートではない。そしてシステム手帳のように中身(メディアである紙)を補充していくこともできない。だから書き終えてしまえば、別のノートを新たに使い始める必要がある。
だからせっかく書きためた情報をあとで見返そうと思っても、手元にあるのは真新しいノートで、記録した当のノートは自宅の書庫にある、という状態になりやすい。


手でペンを使ってメモをすると記憶が固定されるというが、データの再利用を考えるのであれば、デジタルメモを使うメリットの方がはるかに大きい。検索もできるし、いつでも手元においておけるからだ。写真を撮り、音声で入力することもできる。


つまり手書きのメモを選ぶというのは、ペンと紙というアナログな形式をデジタル化できない実は言い訳なのである。
ただし、そのアナログな行為にしがみつくことが、全てがデジタル・ネット化していくことで埋没しがちな自分たちの、精神安定を図っている。
Apple Watchのようなスマートウォッチが普及しても、アナログな機械式時計を手放せない人多いだろうし、インターネット上にありとあらゆる情報が溢れかえっても紙の新聞をやめられない人もいるだろう。


だからといって、そうした人たちが、すべてデジタル化の波を拒否しているというわけでもない。むしろ、スマートフォンやPCは使いこなしている、という人もまた多い。そしてそういう傾向になる人ほど、どこか非常にアナログな世界というか感覚を人一倍必要としているようである。(デジタルの中で呼吸し、生きているはずの僕でさえ、一年に1度はモレスキンのノートを買っているか買いたくなる)

モレスキンは、上でも少し触れたが、デジタルノートサービスであるEvernoteと連携し、手書きで書いたメモをEvernoteに記録するという新しいサービスを発表している。
こうした取り組みは悪くないが、僕が思うに、モレスキンが向かうべきは現在並行して彼らが行っているような他のブランドやアイコンとのタイアップ(例えばバットマンやスターウォーズとのデザインタイアップ)のような方向の強化ではないか、と考える。


ノートをとるという行為は、所詮アナログで、古臭い行為だ。紙のノートはやがて絶滅するかもしれない過去の遺物だ。それでももっと早くデジタル化が進んで、我々の生活様式が一変していく領域は他にたくさんあり、その中で人間的な感覚を維持するための「アナログ」が、どうしても必要になっている。


その中で、無数に種類のあるノート、手帳の中で、これを使う、という意義と意味をブランド化して成功しているモレスキンは、アナログであるがゆえ製品自体の進化ではなく、進化していないこと、そして不変であることが生むブランド効果を最大限に生かしていただきたいと思うのだ。

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.