そんな現実から逃げ出すキッカケとして、彼は学術賞の授賞式でスピーチを行うために、故郷モンタナを離れ、会場のあるニューヨークへと向かう。それは10歳の少年にとっては、確かに冒険の旅であった。
モンタナの牧場で暮らすユニークな家族
T.S.は科学的な思考と論理を備えた天才少年。
しかし、田舎暮らしにはその才能を活かせる場がなく、家族の中でも自分が浮いていると自覚せざるを得ない。
母親は昆虫研究に生涯を支える科学者であり、T.S.への理解はあるが、アメリカの古き良き時代のカウボーイスタイルの生活を好む父は、活発な弟に比べると自分を可愛がってはくれないように思う。
姉に至っては、T.S.を変人呼ばわりする。
それでも家族には愛情があり、本当の自分を理解してはくれないものの、T.S.の暮らしは幸せなものであるはずだった。双子の弟レイトンがライフルの暴発事故死するまでは・・。
T.S.はレイトンの死に自責の念を抱いており、両親や姉、そして飼い犬に至るまでが自分を責めているような気がしてならない。同時に、弟ではなく自分が死んでしまっていた方がよかったのでは、と考えてしまうのである。
一通の電話が、T.S.を冒険の旅に誘った
そんなとき、一本の電話が自宅にかかってきた。
それは、スミソニアン学術協会から、最も優れた発明家に贈られるベアード賞を、T.S.が受賞したという知らせだった。
家にも学校にも居場所がないと感じていたT.S.は、自分を認めてくれる人々が待つ、ニューヨークのスミソニアン博物館へと向かうことを決意する。
美しい映像の裏側の哀しいトーンに共鳴していく
本作の監督は『アメリ』で有名なジャン=ピエール・ジュネ監督。
同じように華やかで美しい映像は、ファンタジーを思わせる楽しさで溢れている。しかし、その裏側では鬱屈した劣等意識だったり、幼い心の裏側の罪の意識や寂しさが、哀しいトーンで流れていく。
ずば抜けた才能を持つ少年が、それを理解されないつらさ。そして愛するものを失うことの悲しさ。しかもその死の責任が自分にもあると感じてしまう怖ろしさ。そんな重苦しい心の葛藤が、少年を冒険の旅へと連れ出す。
果たしてT.S.は無事、スミソニアンにたどり着けるのか。そして、家族の元に戻れるのか。
家族たちは、レイトンの死を乗り越えて、再び一つになれるのか。
本作を観る人は誰もが、美しい映像を楽しみながらも、T.S.がその深い心の闇から救い出されることを、固唾を飲んで見守ってしまうことだろう。