ノーヘルと無謀な走りは真似しちゃダメよ〜なんだけど、とにかく明るい主人公 菱木研二と彼の愛車のゼッツーが、ライバルたちとの公道レースを繰り広げる横浜(ハマ)系バイクストーリー。
『あいつとララバイ』といえば「いっけぇー!俺のゼッツー!」の雄叫びで有名ですが(笑)、『バリバリ伝説』と連載時期が重なっていること、ご存じでした?少年マガジンという超一流漫画週刊誌に、バイク系の作品が二本も同時掲載されていたなんて。今では考えられないですね。
ラブコメ時代
『あいつとララバイ』は、ざっくり初期のラブコメ編と、中期の暴走族同士の抗争編、そして後期の公道レース編に分かれています。
作者の楠みちはる先生は、多分結構大雑把で直感的w。
ストーリーテラーではなくて、わりと最初のキャラクター設定だけしたら、あとは勢いで描いていっちゃうタイプの作家さんです。
しげの秀一さんの『バリ伝』が、街道レーサーからサーキットへと舞台を移していく過程、そして最終的なゴールまで一気に駆け抜けるわかりやすいストーリーなのに対して、『あいつとララバイ』はそういうストーリーはない、といってしまっていいですね。
初期のラブコメ編では、浮気ぽくてバイク好きの、不良少年研二くんと、健康的で爽やかな少女友美ちゃんを中心とした美少女たちとの当たり障りのない恋愛模様が描かれます。
この時期の絵は、見ていただければわかるように、ちょっと古い。なにかというと、すぐに蝶ネクタイつけて踊るシーンが出てくるしw
ぼくは割と好きなんですが、このラブコメ編を読み通せるかどうかで、『あいつとララバイ』の評価が変わってしまうかもしれません。
不良少年〜暴走族抗争時代
ラブコメ編では、浮気性の研二のふわふわした感じが描かれていましたが、暴走族たち同士の抗争に巻き込まれることになって、急速に絵のタッチも劇画調になり、渋くてクールな不良少年たちが登場し始めます。
また、不良少年たちの永遠のマドンナであり、崇拝の対象として、代々の不良少女たちのリーダーに与えられる称号「本牧レディ」を持つ美少女も登場するのですが、後編には姿を消し、ストーリーも尻切れとんぼになっていきます。
ただ、ストーリーはどうあれ、このころの研二はなかなかに渋く、彼をとりまくバイプレイヤーにもしびれるかっこよさを持ったキャラが多く登場します。
なので、この横浜暴走族抗争編でこの作品にハマった人もかなり多いと思います。
公道レース編〜フルチューンのZII登場
初期からの設定として、研二くんは軟派な不良であり、バイクはうまいけど、喧嘩はそれほど強くない。結果として、彼の活躍の場は徐々に、バイクそのもの。スピードそのものへと変化していきます。
編集部も、これだ!と思ったのでしょう。暴走族抗争編は大団円を迎えることなく徐々に薄まっていき、研二くんの前に次から次へと速い公道レーサーたちが現れ、喧嘩ではなく、走りのバトルへと話の軸が変化していきます。
そう、この公道レース編こそが、『あいつとララバイ』の真骨頂と言えるでしょう!
研二くんのZIIは、この漫画の連載当時でさえ、10年以上前に生産中止になったクラシックなバイクであり、公道レース編になると、テクニックだけではカバーできない、最新鋭のバイクたちとのバトルになります。
最新バイクに勝つための理由が必要となり、研二くんのゼッツーは市井の天才チューナー、ボンバーのオヤっさんの手によって、スーパーパワーを持つフルチューンドバイクへと変身するのです。
バイクがすごいパワーを持つ過程で、研二くんのテクニックも、もはや公道レーサーのレベルではなくなっていきます。
そして、研二くんという天才を前にして、元世界的なエンジニアであったボンバーのオヤっさんと、その弟子だった井田さんたちオトナが、自分たちがやるべきことを真剣に考え出すようになるのです。
オートバイは危険。不幸な事故もある。人には勧められない。
だけど、楽しくて楽しくてしかたない、素晴らしい乗り物であることも事実。
井田さんはオヤっさんに、再び真剣にバイクの世界で生きていくことを提案するのです。
オヤっさんの心に火をつけた井田さんは、研二くんにも共に米国にいって、レースをやろうと誘います。
公道を走る楽しさは無論よく知っている。
しかし、スピードを極めていくにはサーキットしかないのかもしれない。いままで自分の将来を真剣に考えることのなかった研二くんに、人生の転機が訪れるのです。
オヤっさん、井田さん、親友の大門恭介とともに米国にわたった研二くんたちは、米国を転戦しながら徐々に結果を出していきます。
『バリバリ伝説』のような華やかな世界に辿り着けるかどうかは、まったくわかりませんが、優秀な技術と夢を持ったオトナたちと出会うことで、研二くんもまた、好きなバイクにまたがったまま、新しい世界へと動き出します。
この陽気さとノリが、『あいつとララバイ』を名作にしている所以なのです。
オートバイは楽しい。
危険なこともあるけれど、それはどんなスポーツだって同じ。
そして、前向きに生きることって楽しい。
この作品は、そういうシンプルなことを教えてくれる、最高に爽快な青春漫画なのです。