ここ数年、お盆休みとは無縁となっている。お盆明けに締め切りがあるフリーペーパーのアートディレクションを引き受けている関係で、お盆休みはすっかりあきらめてしまっているようなところがあるのだ。それでもこの季節は、Facebookなどから楽しそうな夏休みの風景が届くのを眺めていると、そわそわしてしまうのは人情というものである。
仕事をおっぽりだして旅に出るぞ(笑)
とはいえ、クライアントもお盆休みに入るので、こちらもお休み明けから滞りなく業務ができるところまで作業を進めておけば、お休みしてもいいのだ。そうして私は、お盆前にやっておかねばならないと思われる案件を主従選択して、私が作らなければ進まないデザインを仕上げて、製作会社やライターさんに慌ただしくメールして(ライターさん、ごめんなさい。。。)そして、私よりも期日が迫ったデザイン作業をたくさんかかえている従業員に対して「申し訳ない、明日からお休みをとりますから」と問答無用の宣言をいい放ち、頭の中で膨張していた仕事のあれやこれやを無理やりひきはがし、バイクの旅へと気持ちを切りかえたのだった。
群れるのが好きではない。なのでバイクで旅に出る時はいつも独りだ。持っていく荷物はこれ以上少なくできないと思われる量にとどめる。基本は道に迷わないための地図とカッパだけ。この頃は、iPhoneの充電器やなにやらも小さなバッグの隅に突っ込んで。それでも、たどり着いた街でホテルに泊まるようなツーリングであれば、北海道へのツーリングだとしてもなんとかなるものではないだろうか。
キャプテンアメリカのようにツーリングは身軽な方がいい
キャンプツーリングならテントやシュラフといった、快適に野宿する装備が必要になるだろう。映画イージーライダー憧れて、バイクに乗り始めたような世代なのからか、私にはそれすらもなるべくコンパクトにできないかと思う。できればキャプテンアメリカのように、ツーリングに出かける時は腕時計も投げ捨て、野宿の荷物は丸めた毛布だけみたいな、いさぎのいいスタイルででかけたい。バイクの旅には美学が必要なのだ。
ツーリングには言葉にできない感動がある
バイクに乗っている方ならツーリングの楽しさは説明不要だろう。天候やルートなど、様々な条件に左右されてしまうものだが、やはりツーリングの素晴らしさは体験してみるのが一番いい。この日向かった福島県の会津地方は、これぞ夏!という積乱雲が空いっぱいに立ち上り、これ以上はないのではないかという陽気に恵まれた。会津から奥只見に向かう途中で休憩した道の駅では、都会の人工的な蒸し暑さとは無縁の、清々しいそよ風が頬をなでてゆく。ここまでたどってきた光景も含めて、これを文章で伝えるのはノーベル文学賞をもってしてもムリかもなぁと、職務放棄のいい訳を考え始めるほどだった。
ピースサインはライダーだけがわかつ感動のシェア
そんなバイクツーリングの原点にかえるような体験となったささやかな旅。しかも現代のバイクの原点のような私のマシン(シートのしわに長時間のライディングがうかがえる w )。久しぶりに出かけたツーリングで、すれ違うライダーが4名ほどピースサインを贈ってくれた。いまの若い人は知らないかもしれないが、私がバイクに乗り始めた30年以上前は、ライダーたちは道ですれ違う時にお互いピースサインを贈ったものだった。
この習慣はしだいに失われていったが、今回福島をツーリングしていてピースサインを贈ってくれたライダーがいたことに、ちょっと感激した。いずれもソロツーリングをしていると思われる方だったが、このライダーも私と同じように、この日のツーリングの素晴らしさを、すれ違った数秒の一期一会に感動を分かち合いたかったのではないか。
すれ違う時にちょっと手を挙げるだけでいい。それだけでバイクに乗っているという喜びを誰かと共有できる。Facebookのいいねもいいが、同じ瞬間を同じ場所でバイクですれ違う誰かに、リアルに「いいね」を贈れるピースサインって、あらためて素晴らしいなと思わせられたのだ。たった4回だけどね。