ミュージカルは苦手、というと「タモリさん?」と突っ込まれそうだが(苦笑)、僕は確かにミュージカルは好きでない。ただ、最近のミュージカル映画は『レ・ミゼラブル』でもそうだし、『ジャージー・ボーイズ』もそうなのだが、演技と演技の間に唐突に歌い・踊り出す不自然さを、実に鮮やかに包み隠すようになってきていて、それほど苦にならなくなっている。
この『ANNIE/アニー』は、ある意味典型的なミュージカル、というより映画より先にブロードウェイ・ミュージカル化された作品であり、知らぬものがないといえるほどのミュージカル中のミュージカル、だ(笑)。
しかし芸達者で歌も本職にできるくらいうまいジェイミー・フォックスに対して、演技力でも歌唱力でもまったく引けを取らないアニー(クワベンジャネ・ウォレス)が、全てを自然に成立させている。
10歳の孤児に与えられたシンデレラストーリー
物語は、典型的なシンデレラストーリーだ。アニーは幼い頃に親に捨てられて、孤児院に引き取られた10歳の女の子である。そんな彼女は不良少年たちに追い回される野良犬を助けようとしているうちに、車に轢かれそうになるところを、大富豪のスタックスに助けられる。
スタックスは次期市長選候補。異常なまでの潔癖性で子供も動物も嫌い。孤独を愛する、仕事中毒だ。周囲もそんな彼のスノッブな性分をよく知っており、市長選は苦戦が予想されていた。
そこで、彼の選挙スタッフは、アニーをしばらく里子にして、好感度アップを狙う作戦を思いつく。
友達になりたいほど魅力的なアニー
最初は100%打算だった。市長選に勝つため。ただそれだけのために10歳の女の子を利用しようとした。しかし、そんなスタックスの心にも少しずつ変化が現れる。
なぜならアニーは、正真正銘、本当に魅力的だからだ。
同時に、スタックスも非人間的な男ではない。他の何よりも仕事が好きでビジネスに長けていて、成功するために不必要なモノは封印してきただけだ。しかしアニーがその心の奥底の固いロックを外してしまうのである。
スタックスは、アニーにこう言う。「人は与えられたカードで勝負するしかない」
アニーはこう聞き返す。「もしカードさえなかったら?」
こういう切り返しの地頭の良さがアニーの魅力だ。
スタックスもそう思う。思わず笑ってしまう彼は、「ハッタリを使え」と答えるのだ。「誰にでもチャンスはある、そう思うからこそ努力する価値があるのだ」と。
古典的な名作だけに、物語の結末は、多くの人はご存じだろう。
だが、ここでは書かない。
是非とも本作を借りてみてほしいからだ。
ミュージカル嫌いの僕が断言する。
『ANNIE/アニー』は傑作だ。観たら最後、あなたもこのアニーを引き取りたくなるだろう。そばにいて、一緒に暮らしてみたくなるにちがいない。