米軍史上、最も多くの重要狙撃を成功させてきた天才スナイパー クリス・カイルの憂鬱
クリス・カイルは2Km近くの的を正確に射抜く、天才的な狙撃手(スナイパー)だ。
2003年から始まったイラク戦争では、少なくとも160人を射殺。敵からは”悪魔”と恐れられた。
戦場では、指令を受けてターゲットを射殺するだけでなく、時として自分自身の判断で狙撃するか否かを決めなくてはならないようなシチュエーションに置かれることは、よくあることだ。だからクリスは、その都度 ギリギリの緊張状態の中で、自らの意思で引き金を引く。
それが女子供であろうと、悪意や殺意の有無や、武器の携帯・不携帯を瞬時に見極めて、必要とあらば撃ち殺さなくてはならない。
間違えて無辜の民間人を撃ってしまったらどうするか?いや、狙撃しなかったことで味方の兵士が殺されてしまったらどうする??判断を間違えることは許されない、そんなギリギリの状況下でクリスは重いライフルを構え続けるのである。
世界最強の特殊部隊SEALsの一員となるも、徐々に精神のバランスを崩していく
クリスはロデオを愛し、牧場で働く若者だった。あるとき、テロで多くの無辜の米国市民が殺害されるシーンをテレビで見たことで、軍隊に入ることを決意する。彼は強い肉体と精神力を持ってSEALs(シールズ。米国海軍所属の特殊部隊。SEA/海、AIR/空、LANDA/陸の頭文字をとってSEALs)に入隊する。
入隊と同じ頃にクリスは結婚し、幸せな家庭を得るが、ほどなく戦場に向かうことになる。あとは前述の通りだ。
海兵隊を守るために、時として民間人を装って攻撃してくるテロリストを射殺するのが彼ら狙撃手の役目だ。クリスは抜群の判断力と狙撃力をもって任務を果たしていく。そして、味方からは伝説の狙撃手と称えられ、敵からは悪魔と恐れられるようになる。
ただ、さまざまな局面で任務をこなすクリスであったが、戦場に戻っても、戦場にいるときの極限的な緊張状態を解くことができなくなっていく。深く激しく重い、そんなトラウマがクリスの神経を蝕んでいくのである。
辛く、重苦しい現実を見せられる傑作
本作は間違いなく名作だ。
ただ、観るなら男(女)同士、もしくは一人で観ることをお勧めする。
戦場にいるときが平常となり、平和な日常に戻ると、生活音にさえ怯え、武装していないことに耐え難い恐怖を感じてしまう。そんな主人公をカップルで観ていると、二人の関係によくない波動が加わりそうである。
できるのであれば一人で観て、静かに戦争という、人間が産んだ避け難く耐え難い、悪意の塊に対する怒りや悲しみ、憎しみを一人胸の底で思い返すべきだと思う。