あなたはバイクに乗る時にどんなウエアを着て走っているだろうか。バイクで走るのに最も適したこの季節は、すでにだいぶ薄着になっていると思うが、転倒などの危険から身を守るだけではなく、天候の変化に対応するためにも、夏でも長袖のジャケットを着用するのはライダーの心得というもの。また、長時間を高速道路で走る場合なら、薄手のジャケットよりしっかりした革ジャンが、疲労を軽減してくれることもベテランライダーならよく知っていることだ。
ライディングウエアには普遍的なものが多い
ファッション業界は、それこそ毎年のように流行が変化してゆくものだが、ことバイクファッションに関しては、ライディングに必要な条件があるためか、デザインの違いこそあれ基本的なスタイルが変わらないものが多いように思う。それこそ何10年も変わらない、パーマネントコレクションと言ってもいいものも少なくない。これを【普遍的なバイクファッション】として紹介してゆきたいと思う。
シングルライダースの定番「VANSON Bモデル」
第一回は「VANSON」のシングルライダース。VANSON Bモデルと呼ばれVANSONのラインナップのなかでも定番のライダースだ。
VANSONの歴史は比較的浅くて、1974年にマサチューセッツ州の首都ボストンで「Vanson Associates Inc」として設立。創業者のMichael Van De sleesenさんは、ボストン大学で経営学を学んだばかりの22歳の若者で、自宅のミシンとタイプライターのみでスタートしたようだ。そんな若いVANSONにとって、世間の荒波は厳しかったようで、オイルショックから80年代初頭の不景気で、1983年にVanson Associates Incは倒産してしまう。しかし翌年「Vanson Leathers」として再スタートし、アメリカを代表するモーターサイクルレザーウエアメーカーへと登りつめることとなる。この復活劇では、80年代末から90年代にかけて、渋谷を中心として巻き起こった日本のアメカジブームで、VANSONが人気アイテムとなったということも、だいぶ寄与したというのは有名なエピソードなのかな。
渋谷のバックドロップで購入した初期のVANSON
このVANSONはお察しの通り私の私物だ。およそ30年ちかく前に、渋谷のバックドロップで購入したものなので、Vanson Leathersが復活してあまり経っていない時期の製品ということになる。渋カジブーム到来前のことで、VANSONが手に入るのは渋谷のバックドロップくらいだったような記憶がある。実に100年の歴史を持つレザーブランド「Schott」は、もちろん当時からライダースの大定番で、私もダブルライダースを愛用していたが、VANSONというライダースのクオリティがメチャ高いぞ、ということを友人から聞きいれて購入したのだ。
時間をかけて身体に馴染んでゆくレザージャケット
いまもVANSONの優れた特徴のひとつだが、他のレザージャケットと較べて肉厚で重厚なカウハイドは、光沢があってとても美しい。また、全体的にレーシングスーツのようにスリムな作りになっており、特にアームホールは窮屈さを感じるほどタイトで、腕を通すたびにライディングへの気持ちが引き締まるものだ。ただし、分厚い牛革はそう簡単には馴染んではくれず、身体にフィットするようになるには、それなりの時間がかかることになる。そうして時間をかけて身体に馴染んだVANSONは、30年の時を経てさらに革の光沢感が深みを増していくようだ。ちなみにこのVANSONは大事にしまい込んでいた訳ではないし、ずぼらな私はオイルを塗り込むような手入れもいっさいしていない。まさに一生モノのライダージャケットと言えるだろう。