復活したW800に乗りました。なんだこのエンジンは!? ここまでの味わいが厳しい排ガス規制をクリアして作れるなんて、乗った後でも信じられません。今までとは完全に別モノ。しかも英国車やアメリカ車ともまるで違う、カワサキ『W』だけの世界が確かにある。この完成度は、衝撃です!

信じられない完成度! カワサキの新型『W800』

W800 STREET

スゴい。

復活したW800がスゴすぎる。

まず、すべての先入観を完全に捨ててください。

これはもう、まったく別のバイク。

カワサキのW800ですが、今までとはあまりにも、すべてが違うんです。

カワサキの『W』というのは、1966年に当時の世界最大排気量の624ccのエンジンを搭載した『650-W1』が原点。

そのW1はカワサキが日本から世界へ進出する尖兵としての使命を帯びた最速、最高性能車でした。

そして後に、その使命はZ1やGPZ900R、そして現代のNinja H2Rと引き継がれていきます。

ですが、W1は独特の排気音やバイクとしての原点的な魅力で、今でもファンの多いヴィンテージバイクとなっています。

新型『W800』の中に感じるW1

W800 CAFE(左)/W800 STREET(右)

W1が持っていた、大排気量バイクを操るという原点的、そして本質的な魅力。

それが2019年式として復活した新型W800ストリートとカフェの中にも感じられるなんて、ちょっと信じられないかもしれません。

でも、確かにそれは『ある』んです。

ひとつひとつに、ハッとする

しかもそれは、走り出す前からあります。

クラシカルな印象は変わりませんけれど、各部は現代的に洗練されたデザインに昇華されています。

いちばん目立つのは黒く塗られたエンジンでしょうか?

開発段階ではきっと、こういうバイクはシルバーのエンジンであるべき、という意見も出たでしょうね。

それでもブラックを採用した。

新型W800は、過去の栄光だけを追いかけるバイクじゃない。それ以上を目指す。

そういう作り手の気概を感じます。

それにイマドキは、ブラックのエンジンのほうが抜群に女性ウケとか良いですからね(笑)

話を戻します。

新しいW800ストリートはまず跨った瞬間から、その時点でハッとするんです。

バイクに跨るというより、シートに“ドカッと座る”みたいな感覚。

肉厚で幅も広めのシートは、自然にそういった座りになります。

ここにも旧車然とした趣が潜んでる。

そしてハンドルを握れば、幅が広めで腕が広がります。

ライディングポジションというよりも、背筋がピンと伸びて、居住いが正されるような感覚が強い。

その「跨り感」には確実に、名車W1に通じるものがあるんです。

クラシックが好きなライダーや、旧車乗りなら、跨った瞬間から「あ、コレだ」って感じるに違いありません。

そして、キーを捻ればアナログ二連メーターが目を覚まします。

最近はネオレトロを謳うバイクが増えていますが、その多くは“アナログ風”のデジタルメーターを採用。

あれも新鮮で悪くないですが、こういう部分できちんと伝統を守るカワサキは偉いよナァ……と感心しました。

アナログメーターって、どこか温かみがあるんですよね。機械なのに無機質に感じない。

そういう感覚って、やっぱりあると思うんです。

音と振動。まずエンジンありき。

そして次なる驚きは、エンジンです。

これが最大の驚き、そしてすべての核だと言っても良いかもしれません。

なにせ火が入った瞬間、予想以上の荒々しさをもって新型W800は目覚るんですよ。

排気音、そしてシートを通して身体に伝わる振動。

大人しさなんてカケラもない。存在感がハンパじゃない!

キャブトンタイプのエキゾーストからはバタバタバタッ!という、すこしバサついた、乾いた音。

パタパタと控えめな音だった、これまでのシリーズとは圧倒的に違います。

そして現代のネオレトロバイクは水冷エンジンを採用していく中で、W800は完全な空冷を貫きました。

大排気量の空冷ツインでしか出せないサウンド。その音を新しいW800は確実に奏でるんです。

そして排気量773ccのバーチカルツインエンジンは360度クランクらしく規則的に鼓動を重ねます。

でも、規則的=穏やか、じゃないのだと思い知りました。

アイドリングだけでもライダーに強く訴えてくるエンジンは、軽い空吹かしで一層、身を強く震わせます。

潔く「Wらしさ」のひとつとして、あえて振動は殺さない。

それによって走り出す前から、気持ちが湧き立つ。

そうだよ、こういうバイクが欲しかったんだ!って、一気に惹きつけられるんです。

近年のカワサキ車の中で、断トツの味わい深さ

とはいえ気になるのは、やっぱり『走り』でしょう。

荒ぶるエンジンは実際に走るとどうなのか?ということです。

そして、その答えは

クラッチをつないで、10mで感動する。

そう断言します。

現代的なのに、懐かしい。

実のところ、ボクは数あるバイクの中でも空冷ツインが最も好きです。

ハーレーダビッドソン、トライアンフ、BMW、モト・グッツィ。所有したことのあるバイクの多くは本当に空冷ツインが多い。

そしてテイスティさなら輸入車が一枚上手、と思っていたんです。

エンジンは味わいこそがすべて。

そういう趣味嗜好のボクとして、言い切ります。

この『W』は本物だ、って。

ボクは常々、現代の技術で、往年の名車を寸分違わず再現してくれればいいのに……と思っていました。

誤解を恐れずに言えば、新型W800のエンジンはそれに最も近いと感じています。

でもW800ストリートのエンジンは単純な過去の再現じゃない。

むしろ、その上をいきました。

現代的なトルクとパワー、そして旧車には絶対に望めない機械としての安定感。

それらを備えつつも、走らせれば往年のW1の匂いがする。

エンジン回転数2000rpmから3500rpm。どのギアでも、特にここの味わいが素晴らしいんです。

スロットルを開ければ間髪いれずにドカッ!と路面を蹴って前に出る。

その時、他にはないW独特の排気音が同調してライダーの耳に届きます。

現代的に滑らかでもある。けれど、ボクはこの加速がスムーズだとは絶対に言いません。

最先端2019年製のバイクが、こんなにも荒っぽい加速をするなんて……

何をしても、深い。

そう簡単に底を見せてはくれないのが、新しいW800です。

だってね、ワインディングのコーナーで、さらなる二番底が待っていたんですから!?