ども。常に新しい恋を探しているトーマスです。そんなぼくが切なくて思わず涙した吉田基己(よしだもとい)先生の名作『夏の前日』(アフタヌーンKC)
2008-2009年に『good!アフタヌーン』で連載された、美大生の青年の激しくも甘酸っぱい恋を描いた作品です。

甘く繊細、そしてエロい恋人をよそに、ほかの女性に惹かれるイケナイ青年の恋模様

イケメンの主人公、青木哲生は日吉ヶ丘芸術大学の四年生。絵画を学びながらもあれこれ悩んでなかなか本当に描きたいモノに出会えないことで、心の中に強い孤独感と鬱屈を抱えた、まあ 難解な青年です。

そんな彼の前に現れたのは、画廊の店長を務める年上美人の藍沢晶。和服がよく似合う、清楚に見えて非常にミステリアスな女性です。

2人はふとしたことから愛し合うようになり、強く求め合いますが、ベッドの上ほどは素直に想いを伝えることはできず、繋がってはいてもどこかよそよそしさを抱えた関係が続きます。

そして、実は哲生くんには、見かけるたびについ目でその姿を追ってしまう密かなマドンナが存在していました。彼女の名は「はなみ」。
恐らくは同じ大学の学生と思われるも、素性も本名も知らず、話しかけることもできないままに、哲生くんは彼女の姿を常に探してしまうようになります。晶さんへの想いは強いものの、それとは異なる感情を「はなみ」に抱いてしまうのです。

さらに悲劇なのは、哲生くんがついに「はなみ」の本名を知り、実際に彼女を目の当たりにするときです。「はなみ」の本名は小早川華美。哲生くんの数少ない親友の恋人として、華美は哲生くんの前に立つのでした。

果たして哲生くんは華美への想いを断ち切れるのか、そんな哲生くんの揺れる想いを知りつつも何も言わない晶さんの真の気持ちは??
大人になりかけの多感な時期の瑞々しくも拙い恋心を、吉田基己先生は抑えたトーンで描きながらも読み手の心を静かに、だけど激しく揺さぶるのです。

少年から青年へ。大人へと変わりつつある多感な時期の、拙くも激しい恋を描く傑作

終わりを予感させる展開ながら、ぼくはそうであっては欲しくないと願いながら本作を読みました。

芸術家らしく、複雑怪奇な心模様を見せる哲生くんですが、手の届かない憧れの君と、激しくカラダを求め合う謎めいた恋人の間で、優柔不断なまでに動揺し続けています。同時に、絵を描くことを心から愛していながらもその世界で生計を立てていくというシンプルな生き方にチャレンジする決意もつけられずにいます。
要は、大人の男性としては、彼は相当に未熟。
イケメンで、少し暗さや影を抱えた寡黙な見かけで、人は彼を大人に思うかもしれませんが、実はまだまだ少年の域をようやく出たに過ぎないのです。

そんな多感さや複雑な内面を真に理解しているのは晶さん。だからぼくとしては、晶さんとの恋を成就してほしいと願うし、哲生くん自身も本当はそれが一番と知っているのだと思うのですが、はなみさんへの募る想いを捨て去ることもできない。哲生くんの逡巡は、夏が来る前の不安定な天気に似て、常に曇り空なのです。

若い頃の、あの慄えるような恋の味を思い出す?もしくはいまだって激しい恋をしているというあなた。ぜひ本作を手にとり、お読みください。あなたなら、どんな結末を望むでしょうか。

晶さんと哲生くん

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