先日、オレゴン州のユージーンに行ったんですよ・・・
私事で恐縮ですが、先月はメチャメチャ波乱万丈な1ヶ月でした・・・。約半年ペンディングしていた持病の手術で10日間入院。退院後一週間で海外取材の出張へGO!! その旅立ちの日の朝に、ようやく手術の傷口が塞がった・・・というハチャメチャぶりでした。
寝たきりだったので筋力はガクンと落ちているわ、お腹の傷口が突っ張って歩き方変だわ・・・という状態で訪問したアメリカのオレゴン州ユージーンですが、その取材のテーマは「ランニング」。ただでさえ不健康自慢の私が、さらに病み上がり状態という最悪の健康状態で決行した取材・・・我がことながら、ちょっとミスマッチぶりに笑えました(苦笑)。
陸上が好きな方ならご存知のとおり、ユージーンは「トラックタウン」と呼ばれるくらい陸上競技が盛んな街です。ここには多くのトラックやトレイルランのコースがあり、多くの人たちがランニングを楽しむ環境が整っています。
でも・・・正直言いまして私、ランニング嫌いなんですよ。ランニングってすべてのスポーツの基礎練習になる大事な運動だとは思いますが、そもそも練習ってのが嫌いなんですね。まぁ、その性格が災いしてか、すっかり不健康人間になってしまっているわけですけど(苦笑)。
そんな私ですが、今回の出張取材をとおしてちょっと魅了されたのが、スティーブ・プリフォンテーンというひとりのランナーでした。
陸上界のスーパースター、スティーブ・プリフォンテーン
今回取材したオレゴンの陸上界のVIPの方たちとのインタビューで、常に話題のなかで上がったのはスティーブ・プリフォンテーンというランナーの名前でした。
1951年にオレゴン州クーズベイで呼ばれたプリフォンテーン・・・愛称プリは、高校時代から国内記録を樹立する天才ランナーでした。名門オレゴン大学に進学したプリは、在学中ホームコースのヘイワードフィールドで38戦35勝という大記録を打ち立てています。
プリフォンテーンが活躍していた時代、ランニングは注目を浴びる競技とは程遠い存在でした。ドライバーたちは道路の邪魔になると、ランナーの横を過ぎる時に怒鳴りつけたりゴミを投げることもありました。しかし、そのように疎まれる存在を尊敬の対象へと変容させたのがプリフォンテーンでした。圧倒的な成績と勝利を体現するような人柄で、初めて彼はランニングを「かっこいいもの」へと変えたのです。プリフォンテーンとナイキとのつながりにより、スウッシュは信頼出来るランニングブランドとして確立し、アメリカのシューズ販売会社が世界的なブランドへと変貌していきました。
今回の取材でお会いしたいずれのインタビューイも、口々にいかにプリがすごいランナーだったかを語ってくれるのですが、彼らの語るプリのエピソードの数々よりも、強く私を惹きつけたのは彼が走る姿をおさめた写真の美しさでした。思考や表現を放棄したバカみたいだから、なるべく"カッコいい"という言葉を普段使わないようにしている私ですが、思わずその姿には、カッコいいという言葉を漏らしてしまいました・・・。
プリはただ走るだけ・・・のランナーではありませんでした。自分の競技参加資格を失う覚悟でAAU(アマチュア運動連合)の不合理なアマチュア規定に反旗を翻し、当時不遇な立場にあったランナーたちの地位改善を広く世間に訴え続けてもいます。
それまでは地味なスポーツだった陸上を、自らの姿と態度で"カッコいい"ものへと昇華させたプリでしたが、その生涯は短いものでした。彼の最後の試合となったのは1975年5月29日。ヘイワードフィールドの7,000名の観客の前で、プリは自己記録だったアメリカ記録を塗り替えて優勝しました。
その日の夜・・・日付が変わって間もないことのことでした。プリはMGBのハンドルを握っての帰宅途中、自動車事故を起こし24歳の若さでこの世を去ることになったのです・・・。
健康とか深く考えず、ただ走ることを楽しめたら良いのかな?
プリが死んだ場所・・・プリズ・ロックと呼ばれている場所も訪問しました。そこへ着いたときには、多くの先客がすでにそこにはおり、プリに祈りを捧げていました。それは死後40数年を過ぎても、多くの人の心のなかでプリはまだ生きているのだな・・・と感じさせられる光景でした。
そんなワケ? で、すっかり今回の取材をとおしてプリに心酔してしまった私は、ミーハーにもオレゴン大学近所の売店でプリをプリントしたナイキのTシャツを買ってしまいました(苦笑)。でも、せっかくオレゴンはナイキの地元で、オレゴン州は消費税ゼロなんだから、プリが愛用したナイキのランニングシューズを買えばよかったかな・・・なんて帰国後に思ってしまいました。
果たして私がこの後、ランニングを楽しむようになるのかは蟹の味噌汁・・・もとい神のみぞ知る、ということでよろしく? お願いいたします。まぁプリのようには走れないけど、プリが愛用したナイキのランニングシューズを履いて走ってみれば、すこしはプリが愛した世界を垣間見ることができるのかな・・・なんて思っています。
なおプリの生涯は「Prefontaine」という映画になっていますので、興味ある方はぜひチェックしてみてください。