河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
当時個人的に物凄く“興味を持った”一台だった
数あるホンダ車の中で忘れてはならないのが、1992年3月に登場したアスコット イノーバだ。アコードの兄弟車であるアスコットの派生モデル。当時個人的に物凄く“興味を持った”一台だったのだ。
名前のとおりベースはアスコット。アスコットは6ライトのサイドグラフィックでアコードと差別化を図っていた。その6ライトを受け継ぎながらサッシュレスドアを採用して4ドアHTに仕立てていた。
![画像1: カッコ良く走りも爽快だったアスコット イノーバ【みんなの知らないホンダvol.17】](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783342/rc/2020/05/10/23fa02b5f2b1d2431c687db2b108200f3c5eb1c9_xlarge.jpg)
![画像2: カッコ良く走りも爽快だったアスコット イノーバ【みんなの知らないホンダvol.17】](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783342/rc/2020/05/10/e73682a13418de1fe51ab690c678215d602ac122_xlarge.jpg)
全高はアスコットより10mm下げられ、個性的なグリルレスのフロントマスク、後方になだらかに落とし込まれる流麗なルーフライン、その流れを受けてラウンドさせて絞り込ませたテール部分と全体をスポーティにまとめてあり、雰囲気的にはプレリュードの4ドア版とも言えた。当時流行っていたスタイリッシュセダン市場への参入でもあった。
![画像1: 当時個人的に物凄く“興味を持った”一台だった](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783342/rc/2020/05/10/51e2598bac65edda0e1db6fc19f049238d551219_xlarge.jpg)
インテリアもジャガード織と本革を多用して豪華な仕立てで、実用一点張りのアスコットとは明確に一線を画していたのである。
エンジンはこの頃のホンダらしく3タイプも用意していた。アスコットから受け継いだのがF20A型の2Lで、SOHCが135ps、DOHCが150psだった。これに新開発の2.3Lを用意していたのは驚きだった。それがH23A型DOHCだ。プレリュード用だった2.2LのH22A型をベースに、ボア87.0mmはそのままにストロークを90.7mmから95.0mmへ伸ばしたもの。そのパワーは165ps/5800rpmと控えめながら、トルクは21.5kgm/4500rpmと強力だった。
このエンジンは後に6代目アコードのワゴンSiRに200ps仕様となって採用される。90年代のホンダ製2.2&2.3Lエンジン構成は複雑だった。
![画像2: 当時個人的に物凄く“興味を持った”一台だった](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783342/rc/2020/05/10/5b143a2070feca70b17d3aad51c9a9afe6057fe2_xlarge.jpg)
組み合わされるトランスミッションは5速MTとSモード付きの4速AT。メインはあくまでも後者にあった。サスペンションは当時のホンダ車の主流たる4輪ダブルウイッシュボーンで、これに4輪操舵の4WSを備えていた。加えて、トラクションコントロールのTCS、ビスカス式LSD、ABSをセットにしたTCVも用意し、ホンダが持てる走りの最新技術をフル動員していた。当時のホンダ技術がここに凝縮されていたのである。
このアスコット イノーバ(2.3L)は魅力的だった。まずはスポーティな出で立ちが気に入った。ホンダのセダンに欠けていた“カッコ良さ”があったのだ。とくにボディ後半の伸びやかなラインが気に入った。「ヨーロッパ車は追い越すことを考えてリアをデザインする」と聞いていたことに納得した次第。で、走り出せばエンジンが低回転からトルクもりもりで気持ち良く、さらに回すほどに盛り上がるサウンドもご機嫌だった。ホンダが得意とするロングストローク版DOHCエンジンの真骨頂がここにあった。
時代のせいか、アスコットイノーバは1995年に生産が終了。一代限りではあったが、その存在はホンダの中でも特異だった。