河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
素朴…でも完璧!
1996年10月、シティの後継モデルとしてヨーロピアンベーシックカーを目指して登場したのが『ロゴ』だ。ロゴは歴代ホンダ車の中では比較的素朴なイメージのモデルである。最初は3ドアハッチバックが、それから1カ月遅れで5ドア版を追加。
そのスタイリングはグリルレスとすることで、無国籍というか、ともかく主張は控え目。全長は3750mmと今風のAセグメントで、全高は1400mmと当時としてはトールボーイだった。
当然ながら着座位置は高めで、ポジションはアップライトとなる。当時、一部のハイト系ワゴンにはあったものの、普通のコンパクトなハッチバックではアップライトはまだ珍しかった。初代シティがトールボーイとした後、2代目がクラウチングフォルムというロースタイルを採用、そしてロゴで再びトールボーイとなる。こうしたパターンはホンダにはよくあることだ。
搭載するエンジンも、当時は気筒当たり4バルブが主流だったにもかかわらず、あえて2バルブとしたD13B型の1343ccの直4SOHCを採用した。
そのスペックは最高出力66ps/5000rpmとホンダとしては低回転&低出力。加えて最大トルクの11.3kgmはその半分の2500rpmで実現していた。こうしたセッティングはホンダとしては異例中の異例だ。組み合わせるトランスミッションは5速MTと3速ATに加え、ホンダが独自に開発を続けていたCVTのホンダマルチマチックも用意。
当時試乗して驚かされたのは、街中での扱いやすさだった。それまで思っていた「ホンダのエンジンはやっぱ高回転&高出力だよな」という縛りを、ロゴが一気に解いてくれたものだ。さらに「4バルブは2バルブより偉い」と言う概念も打ち崩してくれた。
とくにホンダマルチマチックとの組み合わせは「これはあり!」と思わせるに十分なものだった。
が、世の中はそう甘くなかったのである。多くの人たちはこうしたロゴの良さを理解してはくれなかったようだ。
ホンダは1998年11月のマイナーチェンジで、ロゴのエンジンを16バルブ化した。最高出力91ps/6300rpm、最大トルク11.6kgm/4800rpmという一気にアップしたスペックは、「やるじゃんホンダ!」の反面、「今までは何だったんだ?」という考えも交錯するが、まあいい。
とにかくこのマイナーチェンジにより、ロゴの販売は回復の兆しを見せる。
進化はまだまだ続く!
ロゴの改良はまだ続く。2000年4月にはついにフロントグリルを設けるのだった。そればかりかバンパーやドアハンドルをボディ同色とすることで高級感を演出。スポーティ版のスポルティックを設定するなど、イメージチェンジに邁進することとなる。
その一方で1998年4月には派生のトールボーイワゴンたる『キャパ』をリリース。キュートなスタイル、メルセデスベンツAクラス的な2重フロア、ユーティリティの優れた室内レイアウト……と、正に“いいことずくめ”だった。
ロゴは、志も仕上がりも完璧だった。が、時代に即してはいなかった。今見れば皆さん納得されるに違いない。
ちょっと先の“今”を見通すことはいつの時代も難しいのである。