河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
スムーズさとスポーティーさを両立させた「ホンダマチック」
ホンダは昔っから独自路線を歩んできた。本田宗一郎さんの「人の真似をするんじゃない」を受け継いできたからに違いない。それはオートマチックトランスミッションにも言える。1973年、初代シビックに「無段変速」を謳った2速オートマチックが搭載された。当時はすでに3速オートマチック時代に突入していたが、あえてシームレスな加速感を謳った。
その裏には当時のオートマチックトランスミッションのパテントに引っ掛からないことへの配慮があったのだ。そのオートマチックは「ホンダマチック」と称し、3速化を経て、さらに4速化やロックアップ機構導入などで進化する。ホンダはオートマチックにスムーズさとスポーティーさの両立を常に図り続けていたのだ。
時は流れて1995年、6代目となったシビックにホンダマルチマチックなるCVTが採用される。CVTはオランダのダフ社が開発したベルト駆動のトランスミッションで、ふたつのプーリーの動きで変速すると言う正真正銘の「無段変速」だ。その発表会で私はホンダマルチマチックの開発者に話を聞いた。
「スタートしてから製品として物になるまで10年かかりました。これからはコンパクトカーの主流となるでしょう」と語ってくれた。CVTはトルクコンバータを用いたオートマチックに比べ伝達ロスが少ない分だけ低燃費には効果的だ。
翌1996年のシティカーたるロゴにも搭載。ここまではこれまでのオートマチックに準じたフロア操作だった。
7代目シビックから大きく転換!!
それが大きく転換したのが2000年に登場した7代目シビックだった。操作をダッシュシフトとしてインパネのレイアウトを刷新。2001年のフィットではホンダマルチマチックSに進化したが、操作は冒険せずに一般的なフロアとしていた。
CVTたるホンダマルチマチックは軽自動車に有効と思われたが、なかなかオートマチックから移行しなかった。1998年のミッドシップのホンダZは4速フロア、1999年のバモスは3速フロア、2002年のザッツは3速コラム、2003年のライフになって4速で初めてダッシュシフトとなる。
その後、2006年のゼストが4速ダッシュ、2008年のライフが4速ダッシュと、こと軽自動車ではオートマチックが継続される。軽自動車でホンダマルチマチックのCVT搭載は2012年のN-ONEまで待たねばならなかったのだ。オートマチックトランスミッションよりコンパクト化が可能なCVTの軽自動車への採用が遅れたのは摩訶不思議。
そんなホンダマルチマチックはプーリー比の見直しや、トルクコンバータの追加など改良が進む。アクセルワークに、より自然に反応することが求められ続けている。何しろ普段お使いの皆さんはプーリーを介したCVTとは思いもせず、「オートマチックなんでしょ」という意識で日々を過ごしているに違いない。そのくらいホンダマルチマチックは市民権を得ていると言える。
ただしわかって欲しいのは、CVTなのだからオートマチックのようにキックダウンはしない。だから、タコメーターとスピードメーターの相関関係を確認しながら操作して欲しい。好燃費にも繋がることなのだから……。
今あなたがお乗りのN-BOXが燃費が良いのは、四半世紀を経て熟成の域に達したホンダマルチマチックのおかげなのかもしれない、というお話でした。