河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
まさに21世紀のコンパクトカー革命だった
今やホンダのコンパクトカーの「売り」となっているセンタータンクレイアウト。それは2001年に登場したフィットから始まった。フィットはホンダMM思想(マン・マキシマム/メカミニマム)※をとことん追求した超ショートノーズのコンパクト5ドアハッチバック。そこには全長わずか3.83mとしては考えられないほどの、使いやすく大きな車内空間を実現していた。まさに21世紀のコンパクトカー革命だったのである。
ここでひと息
※ホンダが提唱するMM思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)とは?
──“人のためのスペースは最大に、メカニズムは最大に”──を意味するクルマ作りの基本となるコンセプトのこと。
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フロントシート下にガソリンタンクを持って来ようと考えた開発スタッフは凄い。何しろガソリンタンクはクルマにとって必要不可欠な存在でありながら、一方で室内空間を阻害するパートでもあるのだ。
コンパクトカーにあってはリアシート下あたりが一般的な指定席だ。しかしフィットの開発スタッフは、フロントシート下に空間を発見した。ここは確かに物入れなどに活用されたりしていたからスペースは存在する。そこに薄べったい樹脂製ガソリンタンクをセットしようとしたところが凄い。
安全性のため四方をメンバーで囲うことで、フロア周りの低重心化と剛性アップも手にした。そう、一石二鳥だったのだ。
ガソリンタンクをボディ中央に持って来ることによって、フロントシート後方は余分なものがなくなり、低床化が容易になったばかりかリアシート下にも空間ができた。リアシートは簡単にダイブダウンしてフラットにできたり、座面を持ち上げるチップアップができたりとかアレンジの幅が一気に広がった。
室内高は当時のオデッセイを超える1.28mを実現し、ラゲッジルームの最大長は1.72mを確保。さらに助手席を倒せば2.4mもの長尺物も置けるという離れ業も見せた。通常時のラゲッジスペースの容量は382Lとフォルクスワーゲンのゴルフ以上。
「これだけのスペースを従来のリアタンクレイアウトで確保するには、ホイールベースをあと20cm延ばさなければ実現しません」と開発スタッフは語っていた。センタータンクレイアウトとしたことで、AセグメントでありながらCセグメント級の室内スペースを手にしたと言っていいのである。
フィットに始まったセンタータンクレイアウトは、モビリオ、ヴェゼル、グレイスなどにも広がったが、その効果がもっとも活かされたのがN-ONEに始まった軽自動車Nシリーズだ。全長3.4m、全幅1.48mとフォーミュラされたサイズにあってはセンタータンクレイアウトは室内の使い勝手を格段に向上させる。そこにハイトなボディが組み合わさればそれは倍加する。
かくしてN-BOXは2世代にわたってベストセラーカーたり続けているのである。実際、N-BOXに乗れば幅こそ「軽」を感じさせるが、それ以外は小型車と何ら変わらない感じで使えるのだから、このレイアウトの凄さを知らされる。
センタータンクレイアウトはホンダの着眼点の勝利の賜物なのである。