河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
ルーフが格納!ホンダのルーフマジック“トランストップ”
1992年2月。伊豆で開かれた事前説明&撮影会で実車を目にした時の衝撃は忘れられない。そのクルマこそCR-Xデルソルだ。フェラーリ250LMと見紛うスタイリング(言い過ぎか?)、そしてトランストップなるルーフマジックに驚かされたのである。硬派な走り屋マシンから軟派なオープン2シーターへ大転換は反発もあったが、個人的には「ホンダらしい決断だな」と思ったものだ。サブネームのデルソルも明るい感じがして良かった。
一連の動作は以下の通りだ。
- トランストップを作動させてみる。エンジンをONにしてサイドブレーキを引いておく
- 室内のルーフロックを解除する
- メーター右上の開閉スイッチを押し続ける
- トランクリッドがエレベーターのように上昇して来る
- トランクリッドが上がりきるとルーフ後端がチルトアップ
- トランクリッド左右から出て来たスライドユニットがルーフに接続
- スライドユニットがルーフをトランクリッド内側に引き込む
- ルーフを抱きかかえるようにしてトランクリッドが下降
- 安全確認のため2回一旦停止してトランクリッドは収納されて終了
要は上昇したトランクリッド左右の棒がルーフを突き刺し、抱きかかえるようにしてしまい込むってワケ。トランク内にフォークリフトを内蔵しているようなものだ。当然ながらトランク自体の開閉もエレベーター式にパワーでの作動となる。
このトランストップはヨーイ、ドンで30秒ちょっと掛かる。その間スイッチは押し続けていなければならないから大変だ。スイッチONでバッタンと5秒で畳むS2000とは時間の掛かり具合は段違いである。ただし今時駐車場でデモンストレーションをやろうものなら黒山の人だかりとなる、かも。そのくらいアクロバティックな動きを見せてくれる。
CR-Xデルソルのカタログにはクーペ&オープンを好みで楽しめる「2ウェイパラダイス」と謳っている。フェラーリ250LMはミッドシップのためボディ後方がフラットだったが、CR-Xデルソルの場合はルーフを収納するための長めのスペースだったのである。まあ、これが特異なスタイリングとなっていたのは間違いない。
このトランストップのギミックは日本ではさほど注目されなかった。というか硬派走り屋CR-Xファンからは軟弱者呼ばわれしていたのだった。が、オープンカー好きのヨーロッパでは大騒ぎとなった。「そうか電動でルーフを折りたたんだり引き込んだりすれば、クーペとオープンが1台で事足りるんだ」と膝を叩いた(と思われる)。真っ先に後追いをしたのがメルセデスベンツだった。94年のトリノショーでコンセプトを提示し、96年に市販を開始したSLKである。後出しジャンケンだけにルーフの折り畳みっぷりはCR-Xデルソルの上を行っていた。コストの掛けっぷりも段違いだったから無理もなし。その後、ヨーロッパ各社からこうしたバリオルーフが次々とリリースされたのは記憶に新しいはず。
話をCR-Xデルソルに戻すと商品としては大ヒット、とは行かず、日本国内で1万8000台ほどしか販売されていないそう。トランストップは動きが複雑なためトラブルもある。でも、いや、だからこそCR-Xデルソルが可愛くって仕方ないんです、個人的にですが(笑)。