「プライグインハイブリッド」は意外なほど激戦区なのです。
トヨタは「PHV」、三菱は「PHEV」と呼び方こそ違います。けれどどちらも「プラグイン」(コンセントにつなぐみたいなイメージ?)してバッテリーに充電し、モーターで走る一方で時々はエンジンをかけて充電したり駆動力に使ったりする「ハイブリッド」カーのことを指しています。
ちなみにわずか2車種しかない国産勢に対して、輸入車勢の「プラグインハイブリッド比率」はそうとう高くなっています。7月現在では6ブランドから24車種が発売中。ジャンルも多彩で、BMWはi8でスポーツカーを作り上げ、ポルシェもパナメーラやカイエンといった上級モデルに「E-ハイブリッド」を設定。ボルボの「T8」は、ターボチャージャーとスーパーチャージャーのW過給です。
車種的、ジャンル的、技術的にもある意味、激戦区となりつつあるプラグイン市場に今、打って出るにはそれなりのインパクトが不可欠です。『クラリティPHEV』は果たして、どんな衝撃的性能を楽しませてくれるのでしょう。
買うべき理由その1「ダントツなEV走行性能」って本当ですか?
まずは初めてのドライビングインプレッションの感想をお伝えしましょう。試乗に当たってとりあえず念頭に置いていたのは、「本当にダントツEVなのかぁ?」という疑心暗鬼でした。
「ダントツEV走行距離」とは、『クラリティPHEV』の開発コンセプトのひとつです。自慢の数値はJC08モードで一充電あたり114.6kmというもの。プリウスPHVが68.2km、アウトランダーPHEVが60.2〜60.8kmですから、これはそうとう「ダントツ」と言っていいでしょう。ちなみにEVでの最高速が160km/hというデータも、ライバルを引き離していると思います。
アコードPHEVの「速さ」に、スムーズな「上質感」を上乗せした新・感覚
とはいえ試乗コースはクローズドで試乗時間も114.6kmを走りきるほど余裕はなく、そちらの「ダントツ」を確認することはできず。残念。けれどそれとは別に、ナチュラル楽しい走り味に「ダントツ感」をしっかり感じたのでした。
先代モデルに当たるアコードPHEVに初めて乗った時、その速さに驚いた記憶がありますが、クラリティPHEVの場合はそんな速さに上質感が上乗せされている印象。システム最高出力/最大トルクは184ps/315Nmで、数値的にも大幅に向上していますが、決して荒々しいものではありません。
アクセルペダルを踏めば踏んだだけ抜けば抜いただけ、トルクが生み出されエネルギーが回生されている感覚は、とてもスムーズなもの。高出力&高容量化されたバッテリーや、EV出力が3.3倍に達しているPCU、トルクもパワーも向上した電気モーターなどで生まれた「増し増し」の余裕を生かして、より緻密で繊細なパワーコントロールに気を配っている……そんな印象を受けました。
買うべき理由その2「先進エクステリアデザイン」は誰にでも自慢できるか?
試乗時間は限られていたものの、クルマを見る時間はたっぷり。そこでやはり開発陣が謳っている「先進エクステリアデザイン」の仕上がり具合をチェックしてみることにしました。
なにしろ価格は税込588万600円と、BMW3シリーズやメルセデスベンツCクラス、アウディA4といった輸入車勢の強豪に匹敵。オーナーになるなら単なるカッコよさや上級感だけでなく、たとえば「先進性」というアイコニックな要素でも、クラリティPHEVを選ぶ理由が欲しいところでしょう。
そういう意味でクラリティPHEVのルックスは、なによりも個性が強いことが最大のウリではないでしょうか。シルエットそのものは、流麗なルーフラインを持つ4ドアクーペといったところ。欧州車を中心に最近非常に人気のあるカタチにまとめられています。
一見して感じられる優れた空力性能。ホンダの最新アイコンも随所に。
メリハリの効いた前後フェンダーには「エアーカーテン」と呼ばれるダクトが配され、高い空力性能をわかりやすくアピール。その上で薄めのフルLEDライト(なんと片側9連!)をアクセントに左右にシャープな広がりを見せるフロントマスクや、ルーフラインからリアウインドーを経て短めのトランク部へと連なるリアまわりの一体感などに、しっかり「最新のホンダ」らしさが漂っています。
実車を見てひとつ驚いたのは、写真で見る以上にボリューム感があったこと。確かにディメンション的には、全長4915mm×全幅1875mm×全高1480mmと堂々たるスペックの持ち主なのですが、写真ではデザイン的な引き締まった感がより強調されているのかもしれません。
コンパクト化されたパワーコンポーネンツ、重くて嵩ばるバッテリー配置の工夫など、PHEVならはのさまざまな課題を克服することによって作り上げたこのパッケージそのものが、まさにホンダの最先端を象徴しているカタチ。そこには、確かなプレミアム感が感じられると思います。
買うべき理由その3「上級サルーンど真ん中」こそ、クルマ道楽の王道と知る
低くシャープに構えたルックスに大人5人がくつろげる室内空間、9.5型ゴルフバッグ4つを積載できるラゲッジスペースなどをまとめて、ホンダ開発陣は「上級セダンど真ん中」と呼んでいます。けれど試乗時にもっとも「上級セダンど真ん中」感を覚えたのは、居心地の良い室内で寛いでいる間でした。
乗り込んだ瞬間、まず感じられたのは高い静粛性です。フロントウインドーとドア部分には、遮音機能付ガラスを採用するなど、吸音と遮音のためにさまざまな処理がふんだんに施されています。フロントだけでなく後席でも非常に静か。これなら「上級サルーンど真ん中」に格上げして欲しいくらいです。
余分なスイッチ類が廃されて、とてもすっきりとした印象のインターフェイスにも好感を覚えました。いわゆる「プレミアム感」を前面に押し立てているのではなく、素材の良さが柔らかく伝わってくるような感覚が味わえます。
急速充電対応で、上級サルーンらしいロングツーリングも楽しめそう
冒頭、お伝えしたとおり、「ダントツのEV走行距離」である100km越えの航続距離によって、クラリティPHEVは日常生活ではほとんどエンジンをかける必要のない、フルEVとして使えるキャパシティを獲得しました。
一方で、「上級サルーンど真ん中」らしさに溢れた室内で寛いでいると、どこか遠くへ行きたくなるのもオーナー(仮とはいえ)としては当然。なにしろEV走行の最高速度は160km/hと、日本では使いきれないレベルなのですから。
そんなクラリティPHEVのグランドツアラーとしての資質をサポートしてくれるのが、CHAdeMO規格の急速充電インフラへの対応です。バッテリー容量の約80%までの充電時間は、約30分。充電中はとかく手持ち無沙汰になりがちですが、「コンフォートチャージ」機能によって、急速充電中でも車内でエアコンを使ったりオーディオを聞いたりすることが可能になりました。
乗り心地や荒れた路面での音振など、試してみたいポイントはまだまだいろいろ。とはいえ、新しい世代のホンダ的上級感の片鱗を感じることができたからこそ、一般公道でのロングランテストに対する期待値がグングン上昇中です。
とりあえずは「3つの理由」。果たして次のテストでは、いくつ「買うべき理由」を見つけることができるでしょうか。(文:神原 久<モーターマガジン 編集部>/写真:Honda)