国家保全の大義か、個人の自由を守る正義か。史上最大の告発者スノーデンの逡巡と決断を、ジョセフ・ゴードン=レヴィット主演で、社会派映画の第一人者のオリバー・ストーン監督が映画化。
安定した生活と恋人を捨て、告発に踏み切った男スノーデン
読者のみなさんは、当然エドワード・スノーデンをご存じだと思う。
NSAとCIAの局員として、諜報活動に従事していた彼は、米国諜報機関が違法に世界中の個人情報を収集していることを知るにあたり、過大なストレスに悩まされる。対テロリストのためと割り切って任務に勤しんでいたスノーデンだったが、明らかにテロと関係のない人々の私生活を覗き、必要とあらば恫喝に使う手口に強い疑問を抱くのだ。
安定した生活を保証されてはいるものの、法を犯し、多くの市民を裏切っていることに耐えきれなくなった彼は、全てを捨てて、米国政府の違法行為を告発する。
当然米国政府は彼の告発を否定し、彼を国家に対する反逆者として摘発するが、スノーデンは逮捕されることなく、モスクワへの亡命を果たす。
スノーデンの主張を信じ、米国の諜報活動の違法性を嫌忌するか。それとも米国政府の(テロや世界体制の破壊を目論む悪意ある試みへの対抗策であるという)正当性を支持するか。
それは彼の告発を受け止める我々次第だが、少なくとも、この告発でスノーデンが得たモノは少なく、失くしたものはあまりに多大であることは知っておくべきだろう・・。
私生活を捨てて正義を忘れるか、口実を信じて大義に準じるか
スノーデンは、NSAに入局するまでは無邪気に米国政府の大義を信じていた。9.11のテロで深く傷ついた米国国民のため、二度とあんな酷いテロを起こさせまいと、自分の持てる全ての力を国のために捧げようとしていた。
ところが米国政府は、テロリストやその協力者だけでなく、世界中のありとあらゆる国民の私生活を覗き、違法に情報収集をしている。インターネットに流れる情報はすべてNSAのデータベースに蓄積され、携帯電話の通話もメールもすべて記録されている。それは明らかに違法だが、テロリストを撲滅させるためならしょうがない、とスノーデンは思う。
しかし、集められた情報が、単に国家体制の維持のために無闇に乱用されていくことを、ほどなくスノーデンは知ってしまい、苦悩する。
そんなスノーデンに、NSAの副長官はこう言う。「米国国民は、自由より安全を求めているのだ」と。しかし、スノーデンは思う、そうかもしれないが、少なくとも米国国民はいまだかつてその選択を問われたことがないし、答えたことがないと。
誰もがスノーデンのような業務に携わるわけでもないし、スノーデンのように告発に踏み切れるわけでもない。彼が本当に正しいのかさえも我々には判別しがたい。
しかし、巨大な権力に対して、己が信じる正義と信念にしたがって行動に踏み切った彼を、善悪はともあれ、やはり一人の英雄であると思わざるを得ないのである。