レンジファインダーはマニュアルでピントを合わせなければならない。ちょうど我々が大切な人たちとの距離を、さまざまな想いを抱きながら手探りで図っていくように。
ライカは近距離専用、いわば拳銃。ライフルの精密射撃のような撮影がしたければニコンやキヤノンの高機能一眼レフを選べ
ライカ Mは一眼レフと同じく、シチュエーションによって最適なレンズを選び、交換することができるカメラだ。しかし、レンジファインダーという特殊な機構を採用してる弊害として、マクロレンズや望遠レンズとの相性が悪い。特に、遠くで動いているようなものを撮影するのが不得意だ。
だから結局のところ、ライカは35mm - 135mmくらいまでのレンズのカメラであり、ポートレイトやスナップにこそ最適なカメラなのだと思う。レンズも(焦点距離を自由に変えられる)ズーム付きではなく、単焦点と言って焦点距離が決まったレンズばかりだ。(ズームレンズは射程距離を変更できるが、単焦点レンズは一定で、ターゲットに自分で近づいたり離れたりする必要がある)
いわば、ライカは拳銃であり、ライフルやマシンガンのような使い方を好む人は、普通にニコンやキヤノンの一眼レフを使うほうが絶対にいい。
あと一歩、被写体に近づけ
第一回でも書いたが、私はカメラが本職ではない。下手の横好きというやつだ。だから本コラムはカメラや写真のことを書いているようで、実は恋愛を始めとする人間観察的な思索をテーマにしている。
「あなたの写真が傑作にならないのは、あと一歩、被写体に近づいてないからだ」
これは、報道カメラマン、戦場カメラマンとして有名なロバート・キャパの言葉だ。彼は35mmのレンズを付けたライカを愛用していた(後年はニコンが多かったと聞く)。
私は女性が大好きで、リスペクトしている。しかし、何人の女性と何回出会ったとしても、彼女たちの心の動きをつかむのに常に苦労させられる。頭の中のレンジファインダーを精一杯駆使して、彼女達の、その瞬間の気持ちにピントを合わせようと必死なのだが、なかなかにうまくいかないことも多い。
それはやはり被写体=女性に、あと一歩近づいていないからなのだと思う。AF(オートフォーカス)付きのカメラや、ズーム付きの望遠レンズを使っていると、被写体に近づかなくとも、その場で足を止めながら簡単な操作で被写体を引き寄せることが可能だ。便利だが、それと裏腹にフットワークを駆使して、被写体を能動的に捉えようとする努力を忘れがちになる。
それと同じように、誰かと親しくなろうと試みる折にも、知らず知らずのうちにズームレンズを使っているような気分で、自分の立ち位置を変えないままに、相手の心を読もうとしてしまっている、そういうことかもしれない。
キャパの教えのとおり、もっと自分から相手に近づいて、相手の立場になって、心のうちを確かめる努力をするべきだ。レンジファインダーは不便な機構だが、少なくとも写真を撮るうえで被写体を引き寄せるのではなく、被写体に自分から近づかなければならないよと教えてくれる。ついつい怠惰になりがちな我々の、背中をそっと教えてくれるのだ。
レンジファインダーを覗き込む、ということは、そういうことだ。そんな自分への戒めと、軽くなったフットワークをいっそう楽しむきっかけを得ること。それこそが、私が本コラムを「レンジファインダーから愛を込めて」と名付けた理由なのである。