恋愛するよりも先に結婚を口にする男
結婚願望が強い友人の話だ。
私にしては実に珍しいのだが、その友人は男性である。
仮にW辺としておく。
W辺は、30代後半なのだが、見た目は若い。美男とは言い難いが、女性受けは悪くない。
彼は常に「箸でくるくる回さなくても味噌が均等に混ざっている味噌汁を毎朝飲みたい」という。だから結婚したいのだそうだ。
どういうことかというと、彼は基本朝は和食党なのだが、インスタントの味噌汁はほっておくとすぐに味噌とお湯が分離して、味噌が下に沈む。それが嫌だ、というのである。
お前な、と私は諭す思いでW辺に言った。女を最初から妻としてみてもいいことないぞ、と。「女性はお手伝いさんじゃないんだ、料理をしてもらうことを前提に話をするなんて古すぎるよ」
W辺はいう。それはもちろんわかってるよ、と。「ただ美味い味噌汁を作れる嫁さんがほしいだけなんだ」
私は首を横に振る。じゃあ、早く結婚すればいいじゃないか。女性の側にも恋愛より婚姻届を出すことをゴールに思っている人はいるさ、と私は言った。
「そういう人に出会えないんだからしょうがない。いたらすぐに結婚するよ」とW辺は若干怒りながら言った。
恋愛するよりも先に結婚を口にする女
W辺には呆れるが、実は女性の側でも結婚至上主義者は意外なほどに多い。
恋愛には二つのゴールしかなくて、結婚か別離か、という二極主義者だ。
私も以前、何年か前に交際していた元カノと久しぶりにデートしたことがあるのだが、その際に「雅彦は私と結婚する気ないの?」と突然聞かれて仰天した。確かに久しぶりの逢瀬は楽しく、つきあっていたころの、ウキウキとした気分に私も彼女も昔に戻ったような距離感にはなっていたが、それにしてもいきなりである。もちろん私にはそのつもりはなく、いまも愉しく自由な夜を過ごしている。元カノはいいオンナだから、その美しさと洗練された物腰で、いくらでもいい男と付き合えると思うのだが、もし彼女が常に”結婚前提の付き合い”を相手に強要するならば、少々ハードルは高くなるのではないか?
いや、それを喜ぶ男もいることはいるだろう、W辺のように。
しかし、私にとっては大事な順番をないがしろにするつもりにはなれない。
まず恋愛。その先に何があるかはわからないが、心躍らせてくれる女性と出会い、彼女のハートをつかむための手練手管に熱中し、そしていつか抱き寄せ、一つになる。そのあとの物語は、二人でゆっくり考えればいい。そう思うのである。
W辺は言う。
お前は女たらしだから、真面目に結婚を考える俺の気持ちがわからないんだよ、と。
何を言う。私は胸の内で舌打ちをした。
私は恋愛に対して保守的なだけだ。そして、いつまででも相手を愛して慈しみたいだけなのである。
さて、次回はF香とのドライブに備えてついに購入したクルマの話をしよう。