『妖怪』 と聞いて、あなたはどういうものを思い浮かべますか?
河童や座敷わらし、それとも目玉おやじや一反木綿のような妖怪を想像するでしょうか?日本には、古くから奇怪で異常な現象を引き起こし、科学では証明できない不思議な力を持った妖怪たちが存在すると言い伝えられています。日本人なら誰しも、小さい頃、妖怪に怯えて眠れない夜を過ごしたり、妖怪に会ってみたいと願った日があるのではないか、と思います。
今回は、手つかずの自然が多く残されている奄美大島に潜む、少しいたずら好きの妖怪について紹介していきたいと思います。
奄美大島に棲む妖怪とは?
昔から島で語り継がれている妖怪の代表、それは、 「ケンムン」 です。
ケンムンまたはケンモンとは、奄美群島に伝わる妖怪。土地ごとに相違があるものの、概ね河童や沖縄の妖怪であるキジムナーと共通する外観や性質が伝えられている。
ケンムンの名は「化け物」「怪の物」の訛りとされ、得体の知れない霊的な存在を意味している。また一説によれば、本来この妖怪の名は仮名では正しく表記できない発音であるため、仮にケンムンという表記を当てているともいう。
上の画像をご覧になると分かるように、容姿はとても河童と似ています。背は5~6歳の子供くらいで、赤色のおかっぱ頭に油の入ったお皿があり、全身は猿のような体毛で覆われています。目は赤く鋭い目つきで、口は尖り、青く光る臭いよだれを垂らしているそうです。
また、脚が異常に長く、膝を立てて座ると、膝が頭の位置にくるとも言われています。
(下の図参照)
あなたなりのケンムン像が出来上がってきたでしょうか?ここまでの説明だと、少し不気味で怖いイメージをお持ちかもしれませんね。でも、本当はケンムンはそんなに悪い奴じゃない…?ここからは、大きく三つに分けて、ケンムンの謎に迫っていきたいと思います。
1.実は大の相撲好き??
ケンムンは、魚の目玉が好きで、魚の目玉だけくり抜いて食べたり、また、カタツムリやナメクジも食べるそうです。そんな不気味な妖怪ですが、ケンムンが一番大好きなことは… 「相撲を取ること」 なんです)
ケンムンはとにかく相撲を取ることが大好きで、人に会うと必ず相撲勝負を挑みます。また、とても負けず嫌いなので、自分が勝つまで何度も何度も相撲を取り続けると言われています。(ちょっと河童伝説とにていますね)
そして、一人が相撲を取り始めると、他のケンムンの仲間がどんどんやってきて、次々に勝負を挑んでくるので、ケンムンに出会った人は体がぼろぼろになるまで相撲を取らされるのだとか…。
私の曾祖父が森の奥でケンムンに出会い、相撲を何時間も取らされ続けて、ぼろぼろになって帰ってきた、という話を祖母から聞いたことがあります。(ほんとかな・・・?)
2.いたずら好きなやっかいなケンムンもいる
ケンムンは元々、穏健な性格だといいます。だから直接人に危害を与えたりすることは少ないと言われているのですが、人間と同じでいろいろな性格のケンムンがして、なかには相当ないたずらをするケンムンがいるそうです。例えば人やモノに化けて、人間を道に迷わせたり、家の食料をこっそり盗んだり、石ころを投げてきたり…。けっこうな悪さをしますね。
島の人たちは、そんないたずら好きのケンムンたちをこらしめる、とっておきの秘策を持っています。
実はケンムンは大の蛸(タコ)嫌い。なので、蛸を見せたり、蛸を持ってくるぞ!というと、すぐに逃げていくそうです。また、河童と同じように皿の油が抜けると力を失うので、逆立ちやお辞儀をして見せると、それを真似して、皿の油がこぼれたケンムンは急いで退散する、と言われています。
これを知っておけば、山道でケンムンに出会っても安心ですね。ああよかった。
3.ケンムンは奄美の守り神…?
相撲といたずらが好きなケンムンですが、奄美大島の人たちにとっては、自然を守るシンボルでもあります。
実は、ケンムンがいたずらをする理由の多くは、自分の住処を守るためであると言われているのです。ケンムンは、 ガジュマル という木で暮らしているのですが、その木を人間の利益のために伐採されたりすると、怒って悪事を働くそうです。
ひどいときには、人を祟り殺してしまうという噂もあり(急にケンムンが怖くなりますね)、島民は「自然を破壊すると、ケンムンの呪いにかかるぞ」と恐れて、むやみに木を伐採することは出来なかったといいます。今でもなお、奄美にたくさんの自然が残っているのは、こうしたケンムンのおかげかもしれませんよ。
昔から島民と共に生活してきたといわれるケンムン。
森の奥深くに大きなガジュマルの木を見つけたら、目を閉じて、そっと耳を澄ませてください。カシャカシャと物音が聞こえたり、視線を感じたら、そこにはケンムンが暮らしているのかもしれません…。