バラードスポーツCR-Xとホンダをこよなく愛するカメラマン伊藤嘉啓氏の愛車CR-Xのオドメーターはなんと70万kmを越えている。これまで一体どこへ向かったのか、なぜそこまでCR-Xを愛するのか、そして今後の走行距離は何万kmに到達するのか…この連載を通してCR-Xの魅力とともに徐々に紐解いていく。今回は、ホンダのレーシングマシンについてのお話。(文:伊藤嘉啓/デジタル編集:A Little Honda編集部)

1965年 最終戦メキシコGPで初優勝を飾ったRA272

ツインリンクもてぎのホンダコレクションホールには、2輪、4輪あわせて様々なレーシングマシンが展示されてるけど、ほとんどがカウルを着けた状態だから、エンジンやコックピットまわりは、どうなってるのかなかなかわかりにくい。

たまには、カウルを外した状態で見たいって思うのは、ボクだけじゃないハズ。Vol.39で取材した動態確認テストでは、それらのマシン達の構造を見ることができたので、今回はそのあたりを紹介したい。まずは1965年の最終戦メキシコGPで初優勝を飾ったRA272から見て行こう。

動態確認テストで走行したのは、当時優勝したマシンそのものではなくて、5位に入賞したNo.12のR.バックナムがドライブしていたマシン。

コックピットのほぼ正面にはスミス製のタコメーター、そしてその左右に油温、水温、油圧といった補助メーターが並んでいる。

たった5個だけ、というとてもシンプルなものだ。スパルコのハンドルは当時のモノじゃないのがチョット残念だけど。その右にあるのはシフトレバー。そういえば今のF1マシンにはシフトレバーがなくって、ハンドルから手を離さずにパドルシフトでギアチェンジしてるんだよね。しかもハンドルは円形のじゃないし。この時代はメカニカルでボクは大好きなんだけどね。

当時はラジエーターもフロントにあったんだ。しかも写真のとおり分厚いもので、当然アルミなんかじゃなくて真鍮製だったりする。ホイールも今じゃ常識のセンターロックじゃなくて、スタッドボルトが6本もあって交換が大変そうだ。

ブレーキは、当時のオリジナルとは違うようだけど、静態保存じゃなくて動態保存してくためには必要な変更なんだと思う。

このマシンでもっとも注目したのは、エンジンにある多数の黄色っぽいチューブ。実はこれ、ガソリンを各シリンダーに送り込むモノなんだけど、イグニッションをオンにするとガソリンがゆっくりとチューブを流れていくんだ。

当時の機械式燃料噴射装置は今と違って低圧だから、ガソリンが流れていく様が観察できるってワケ。こんな情緒的な風景は、今じゃ有り得ないからね。

ホンダに2勝目をもたらしたRA300

次は、ホンダに2勝目をもたらしたRA300。 コックピットは多少モダンになったみたいだけど、基本的なレイアウトはRA273と大きく変わってない感じだね。

ただ、色んなパイプや配線類が目立たないようにレイアウトされてて、かなり進化してるんじゃないかな。ラジエーターは相変わらずフロントにあるけど。サスペンションアームにメッキが施されてるのは、宗一郎サンの好みを反映させたんだろうか。

エンジンで見た目に特徴的なのは、90度V型12気筒DOHCエンジンのVバンク内側からエキゾーストパイプが出ているコト。RA273よりVバンクの角度が30度広がってるとはいえ、狭いスペースからエキゾーストマニホールドが立ち上がって、最終的に4本出しになってるのが芸術的っていうか魅力的だよね。

独創的な第一期のマシンから比べちゃうとオーソドックスに見えちゃうのがMP4/5。 シャシNo.8はアラン・プロストがドライブしていたマシン。

コックピットはアナログなメーターから、液晶のデジタルメーターになってるけど、ハンドルはまだ円形だね。水温や油温、残燃料の表示はグラフ状タコメーターの下に表示されてる。油圧が低下したり、ガソリンが少なくなるとワーニングが点灯するようになってるみたいだ。

シャシはカーボンモノコックだし、ホイールはセンターロックになって、エキゾーストマニホールドもバンク外側のレイアウトになってだいぶ現代のマシンに近い。

エンジンのヘッドカバーデザインは、ボクが乗ってるCR-XのZC型エンジンと似た意匠ってのがいいよね。しかも電装部品もTECって刻まれてるように、市販車と同じサプライヤーの東洋電装製だったりするんだ。

Vバンク内側にはエアファンネルが並んでるんだけど、その上にエアクリーナーが装着される。ブレーキはbremboで、細部にまでワイヤーロックが施されてる。 ぜひともカウルやタイヤを外した状態でも展示して欲しいなぁ。

【地球に帰るまで、もう少し。】連載、はじめから読んでみよう!