WBAスーパー、WBCミドル級世界王者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)と、IBFミドル級世界王者ダニエル・ジェイコブス(米国)が4日(日本時間5日)に行われた。WBOを除く3団体のタイトルを賭けての戦いは、あまり盛り上がりがないまま判定に持ち込まれたが、戦前の予想通りカネロ ・アルバレスが判定勝ちを納め、(メキシコ人としては初の)3団体統一チャンピオンとなった。

2010年代のボクシングシーンを牽引する人気者サウル・カネロ・アルバレス

ロレンスをお読みの方ならよくご存じだろう、無敵を誇ったGGGことゲンナディ・ゴロフキンを王座から陥落させてミドル級戦線のトップスターに躍り出た若きメキシカン。それがサウル・カネロ・アルバレス。
カネロ とはシナモンの意味で、彼の髪がメキシコ人としては珍しい赤毛であることから名付けられた愛称だ。

175cmほどの身長で、ミドル級としては低い方だが、雄大な体格を持ち、常に真っ向勝負を挑むケレン味のないファイトで世界中で高い人気を誇り、英国のスポーツチャンネル「DAZN」と11試合で最低でも総額3億6500万ドルで独占放送権契約を結ぶに至っている。

Saul Alvarez on Instagram: “ Todo está dicho. Nos vemos mañana. Everything has been said. See you tomorrow. Watch #CaneloJacobs 5/4 on @dazn_usa #DoItYourWay…”

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IBF王者ダニエル・ジェイコブス

対するは、2017年3月19日(米国時間18日)に行われたゴロフキンとの対戦では小差の判定で敗れたものの、評価と商品価値を高める結果となったダニエル・ジェイコブス。2018年10月に判定勝ちでIBF王座を獲得して、今回のビッグマッチに繋げることとなった。
人気選手とは言い難いが、折り紙つきの実力者として知られている。カネロ にとってはかなりの難敵と言える相手だ。身長は180cm前後でカネロ を上回り、体格的には正真正銘ミドル級の選手である。

試合展開

身長・リーチにおいてはジェイコブスが優位だが、体の厚みという意味ではアルバレスが上回る(特に彼の広背筋はまるで猛禽類の翼のようだ)。どちらも一発のパンチ力があるため、1-2Rでは比較的静かな展開。お互いに様子見の感がある。

カネロ としては接近戦が望ましく、勇気を持って踏み込んでいくが、ジェイコブスは左ジャブをうまく使って距離を保つ。3Rまでは一進一退、互いによく手を出すが直撃はない攻防が続く。

アルバレスは倒して勝ちたいのだろう、強打をジェイコブスの顔面に叩き込みたい。その意識が強すぎるのか、今回はいつものような巧みなボディブローが少ないようにも見える。
ジェイコブスとしては、負けない、もしくは判定勝ちを収めればいい、という割り切ったスタンスか。人気者のカネロ といい勝負をすれば、今後の彼自身の商品価値を高める結果になる。派手に勝つ必要はない。もともとパンチ力には定評があってKO率も高いジェイコブスだが、ボクシング自体は若干地味。今回の試合でも、上述のような心持ちであるためだろうか、いつも以上に慎重かつ丁寧すぎる戦い方に見える。

第6ラウンドが始まっても先に手を出すのはアルバレス。距離を取り続けるジェイコブスに対して、愚直に見えるほどのリズムで踏み込んでいく。基本的には右利きのジェイコブスだが、ときどきスイッチしてサウスポースタイルをとる。相手を眩惑するためでもあるだろうが、カネロ の踏み込みは変わらず、とにかく距離を詰めて強打を叩き込もうとする強い意志がみてとれる。

7Rに入ってもジェイコブスはサウスポー構え。前半のポイントを見るとアルバレスが若干優位に見える。それを知ってか、ジェイコブスはやや攻撃に転じて、プレッシャーをかけ始めたようだ。
ただ、それでもカネロ は下がらず、いつもの調子を変えない。
カネロはゴロフキン との第1戦でゴロフキン のパワーに押し込まれてロープに詰まり、結果として防戦一方に追い込まれたことが忘れられないのだろう(実際、2戦目では決して下がることなくパワー勝負に挑んで、結果勝った)、ジェイコブスから多少のプレッシャーを受けようがほとんど下がることがない。スーパーミドル級で戦った経験も生きているのだろう、自分のパワーを信じ、前進することをやめない。

8Rでは互いの距離がいきなり近くなる。ジェイコブスが戦略を変え、ショートレンジで連打を打ち込み始めたのだ。最初こそやや動揺してロープを背負うシーンも見られたカネロ だが、その距離は彼自身が熱望してきたレンジ。すぐに反撃し、打たれ強さと乱打戦での気の強さを見せつける。

すると9Rに入ると再びジェイコブスが距離をとり、足を使ってアウトボクシングをし始める。ショートレンジでは分が悪いことを再確認したのかもしれない。距離をとって、リーチを生かして速いワンツーや得意の右フックを振るうことに専念する。結果、このラウンドはジェイコブスが支配したように見えた。

これでいい、このやり方で勝つ、とジェイコブスは思ったのかもしれない。10Rもサウスポースタイルのまま距離を保ちつつ連打でポイントを稼ごうとする。カネロ は相変わらずあまりボディブローが出ない。思った以上に疲れているのかもしれない、これまでのラウンドに比べるとカネロ の手数が減ったように見える。とはいえ、両者のパンチもまともに当たっているわけでもなく、ポイントのつけ方は実に難しい展開が続く。逆に言うと、あまりエキサイティングな試合でもない、ということだ。
カネロ からすれば自分の商品価値を考えると業腹だろう、ジェイコブスからすれば狙い通りかもしれない。

人気の源泉でもあるのだが、カネロ は常に真っ向勝負で、強い体幹を生かしてインファイトに持ち込み、巧みな連打に強打を交えることで相手をねじ伏せようとする。逆に言うとトリッキーなことをしない(できない?)ので、メイウェザー戦のように相手が完全に判定狙いでボックスアウトしようしてきた場合、持ち前のパワーを生かせず空回りさせられてしまいかねない。もちろんカネロ のパワーを受け流せるだけのスピードとテクニックを持つボクサーはメイウェザー以外に見当たらないので、そんな展開はなかなか出てこないのだが、いずれにしてもカネロ に勝つための一つの戦い方としては誰もが思う戦法である。

今回のジェイコブスは、メイウェザーよりはオフェンシブ(攻撃的)ではあるが、カネロ を倒すのではなくボックスアウトすることに専念した戦略をとっており、結果的には最後までこの戦略を破るまでにはいかなかったと言える。

KO必至と思われた一戦は、あまり山場を持たないまま12R終了のゴングを聞いた。

試合結果

カネロ ・アルバレスが順当の判定勝ち。
カネロ としては不本意だろうが、勝ちは勝ち。
だが、次のビッグファイトの相手選びはちょっと難しくなったかもしれない。より観客を呼ぶための、"良い相手"(GGGを持ってくるか?)のハードルはだいぶ上がったと言えるだろう。