ハイレベル間違い探しのお時間です。冒頭の3枚並んだ写真は、なんの比較をしている様子でしょうか? それぞれどこが違い、どんな効果を狙ってのものか、皆さん少しお考え下さい。本日は、今まさに気になって悩んでいる人を除けばおそらくじっくり掘り下げる機会の少ない、"ダートトラッカーという戦うためのモーターサイクル" を仕立てあげるアイディアを、ほんのいくつかご紹介します。

なにも足さない。なにも引かない。ネジを回せば体感できることなら迷わずTRY!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。レディメイド (既製品) のダートトラックレーシングマシンというものがほぼ世の中に存在しないことは以前にもお話しする機会がありましたが、親愛なる読者の皆さんは覚えていらっしゃいますか?

この魅力的なスポーツに積極的に取り組んでいくためには、数ある公道走行可能な "トレール車寄りのマシン" や "オフロード専用レーサー" などのなかから、ベース車両として適した車両を見定め、仮にそのマシンが本来持つ性能や特性を若干スポイルすることになったとしても、ダートトラックライディングに特化した有利なコンディションを "作り込んで" いく必要があります。とはいえ、是が非でもお高いアフターパーツが必要、ということばかりではありませんのでご安心くださいね。

本日トップ画像でモチーフとしたのは公道走行不可のオフロード・プレイバイク、ホンダCRF125F。間違い探しの正解は "前輪の車軸の位置" の違いでした。皆さんお気づきになられたでしょうか?

冒頭写真の左側は、フロントサスペンション = フォークより前に車軸が位置する "リーディング・アクスル" 。この車種本来のノーマル状態で、悪路走破性を追求し、サスペンションストローク量を可能な限り長く確保するため、現代のほとんどすべてのオフロード系バイクで採用される形式です。

リーディングアクスルの図。車軸がフロントフォークの前方に位置するこの車種のストック状態。

この車両には、前後17インチホイール + ダートトラックレーシングタイヤを組み込み、主にビギナーへの貸し出しや、筆者自身が他のライダーとの "スパーリング" に使用していますが、実は同様のサイズの優れた先代モデル、XR100R / CRF100Fなどに比べ、"ダートトラック走法における" ハンドリングはやや劣る印象でした。というか・・・"WORST HANDLING PRACTICE BIKE EVER" かな。

もっとも本来、このCRF125Fは体重55kg以下のライダーをターゲットに作られた "オフロード・プレイバイク" です。大のオトナがスロットル全開でターンに飛び込み遠心力に抗い、スライディングブレーキ走法で横滑りさせて走る基本性能など、なくて当然と言えます。これをダートトラックライディングに最適化させていくのは、使い手である我々ライダーやチューナーの役目。優れた素材であり教材を用意してくれたメイカーの名誉のためにも、その点は強調しておかなければなりません。

というわけで目の前のマシンをしげしげ眺め、自分の走る動画や写真を研究し、この種目で求められるベターハンドリングについて考えた末、少々乱暴ですが左右のフロントフォークをそのまま入れ替え、車軸がフロントサスペンションより後方に配置される "トレーリング・アクスル" 化して乗ってみることにしました。冒頭写真の右側がその状態です。メイカー開発担当の方が見たら涙されると思いますが、我々は最初から目的外使用を目指しているわけで、もうやりたい放題です。ワハハ。

トレーリング・アクスルの図。車軸はフロントフォークの後方に位置する。

モーターサイクルの車体フロントまわりには、「キャスター角」「トレール量」「フォークオフセット長」「フォーク自由長」など、数値化・図式化しやすいいくつものポイントがありますが、静止状態の誰も乗っていないマシンのそれらを評価し、アレコレ語るのはかなりナンセンスです。

実際にはライダーの全体重が車体にかかり、速度ごとの勢いに応じて前後左右に揺れ、コーナーリング中は路面コンディションを含めた様々な要素が影響し、マシンの動きはさらに複雑になります。特にダートトラックライディングの場合、コーナーリング安定域を制御するための前輪の向きは "外向きも内向きもどちらもアリ" という、机上の論では簡単に解析できないメチャクチャな状態です。

ライダーの体格や体重差、ライディングスキルやフォームの違いも当然関係してきます。ライダー本人が状況をコントロール下におさめ = 扱いやすく、他のライダーに対して少しでも優位に立てる方策を探ることこそが、本当の意味でのセッティング作業となるでしょう。

ダートトラック競技の本場アメリカでは、ライディングスクールで基礎を学ぶための教習車という位置づけはさておき、100〜125cc級の小排気量車をレースに使うオトナの競技人口はさほど多くありません。大柄な白人たちの体格にチビバイクが小さすぎることはもちろんあるでしょうし、日本のようにこの種のミニバイク用アフターパーツが安価で無数に選べる環境ではないこと、より大きなマシンとパワーを志向するお国柄も関係してくるのかもしれません。

とはいえまあまあの少数派ですが、彼の地のトラックを走る小排気量車のなかには、先ほど筆者が紹介した "トレーリング・アクスル" を選んでいる個体がちらほら見受けられます。上の写真のマシンは前後ホイール径は変えず、ハイトの高いタイヤを選び、フォークを逆組みしている仕様ですね。

手持ちの選択肢から様々な組み合わせを試すことは、セットアップの第一歩です。車軸を前後に入れ替えるのはその中でも比較的大胆なトライですが、タイヤ空気圧やハンドルの取り付け角度、フォークの突き出し量やステムベアリング締め付けトルクの微妙な違いなど、サービスマニュアルには書いていないとしても調整できるマシンの部位はいくつもあります。それらの調整と組み合わせで何がどのように変化するのかは、道具を使うスポーツに取り組む以上、1つでも多く知っておくべきです。

ショボいうちこそ。トンネルを脱し上達を助ける道具はさっさと手に入れるが吉。

というわけでここまでは特になにも部品を買い求めることなく、大幅な変化を実体験することができました。結果として大きな収穫と、同時に新たな弱点が見えてきます。鋭いハンドリングと順応性は期待通りかそれ以上の好材料でしたが、今度はジャンプありのオフロード走行を指向する、ノーマルフォークの大きすぎるストローク量が、オーバル走行では少し邪魔になることがわかってきました。

センター・アクスルの図。インナーチューブ径とフロント車軸径がCRF125Fと同じ寸法の車種から流用し小加工で取り付けてみる。サスペンション自由長はノーマル状態より35mmほど短く、極端な"前下がり"の姿勢に。

というわけで冒頭中央の写真。今度はフロントサスペンションの中心を車軸が通る、センターアクスルの、他車種用純正フォークを安価な中古で入手し、マシンに取り付けてみることにします。左右反転フォーク = トレーリング状態でのテスト走行から新たにあぶり出されたネガ要素を排除するため、最大ストローク量が少なく、全長も短いものを選択。サビ傷ヨゴレ多数。異音なく絶好調です。

結果は良好。今回比較した3つの仕様の中ではもっともバランスがよく、これまで不満に感じていた多くの点で改善が見られます。現場に居合わせ試乗した何人もの (様々なスキルレベルの)ライダーに、ノーマル状態との違いを確認してもらうこともでき、この車種のダートトラック・コンバージョンにはとても適したモディファイ・メニューが新たに発見されました。

ダートトラックライディングを始めたばかりの方からしばしば「初心者なので上達するまでマシンはノーマルで頑張ります!」「まずは腕前を上げたいです!」といった熱い台詞を頂戴しますが、"正しい方向にマシンの状態を調整できるようになること" は上達のうち。この競技に必要な技術です。

10年20年のキャリアを持つ、ベテランの域に達するライダーたちの多くは、今ひとつのコンディションのマシンでも "それなりに走らせる" ことが経験的・感覚的にできるようになった人々です。マシンに足りない部分や弱点を感じ取ることができ、それをカバーできる技術・・・ライディングスキルとマシンセットアップ能力の両方が身についているはず。

このスポーツに取り組み始めて日の浅い方にこそ、闇雲な走り込みだけでなく、ライディングの幅を広げるための挑戦や、道具を正しく整えることで見えてくる部分についても、隅々までアンテナを張り巡らせていただきたいと思ってます。10年20年先を行くライダーたちに追いつき追い越していただくためには、同じ道程をなぞるだけではその差は一向に詰まりません。ベテランたちだってそのポジションでのんびりすることなどありえず、それぞれが貪欲に前進を続けているわけですから。

美味なるものには音があり?整ったレーサーの姿には意味 = 機能美がある。

速く走り勝つことを志向する "だけ" のレーシングマシンが持つ独特の美しさとは、単なるカスタムマシン (失礼) のピカピカキラキラの華麗さとはひとあじもふたあじも違う、機能によってもたらされる極めてシンプルなものだと言えるでしょう。

何が、どうして、どうなるのか。現場でご覧いただく以外に伝えようのない事柄が多いのは間違いありませんが、週に一度の当コラムをきっかけに、魅惑のダートトラックライディングの世界への興味を持っていただければと強く願う毎日です。ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!