年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ見るべき映画を紹介。
今回は、大量殺人を犯した父親を持つ女性が抱えるトラウマを描くフランス映画『エル ELLE』。

理不尽な暴力を受けてなお警察沙汰を避ける女性が持つ秘密とは

主人公のミッシェルはゲーム会社の社長を務める、初老だが十分に美しさを残した女性。小説家の夫と離婚して今は一人暮らしだ。物語は自宅にいた彼女が突如暴漢に襲われ乱暴されるところから始まる。
身も心も傷つくミッシェルだがなぜか警察に通報することを極度に嫌がる。それは彼女が幼少時に得た酷いトラウマのため。彼女の父親は多くの隣人を虐殺して逮捕された終身刑囚であり、彼女は半分狂った父親の凶行を知らず、彼の傍にいたところを発見された。その際に警察の対応やマスコミの好奇な扱いに深く傷ついた彼女は、それ以降なかなか他人を受け入れられない難解な性格になったのだった。

ミッシェルは自分の近くにまだ潜んでいる犯人の影を追うが、彼女が何をしたいのか、何を求めるのかは誰にもわからない。周到のようにも見えるし病的なヒステリーのようにも見える彼女の本心とはなにか??

『エル ELLE』 本予告 8月25日(金)公開

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気丈だが複雑な内面を抱える女性を描き切ることに執着した作品

本作のトレーラーを観る限り、サスペンスもしくはミステリーのような仕立てであるが、実のところそうではなく、ミッシェルというトラウマを抱える女性の奇妙な時間を眺めているかのような作りで、実にフランス的、という感じの映画である。

グザヴィエ・ドラン監督の『たかが世界の終わり』にも通じる、アメリカ映画ではなかなかあり得ないスタイルは、観る人を選んでしまうかもしれない。