3月スタートの当コラム、先週まで9回の連載で、今までノーマークだったダートトラックレーシングへのご興味を、フツフツと芽生えさせかけている方もあるいはいらっしゃるかと思います。オーバル走法の基本概念・本場アメリカPROレース開幕戦・このスポーツに携わる上で重要な心構えや必須装備などをこれまで順番に紹介してきましたので、今回はいよいよ!新たにこの種目に挑戦する方にお勧めするエントリー向けマシンについて、経験者のアドバイスとともにご提案しましょう!

マシンの仕立ては、"超・重要"です!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/レースプロモーターのハヤシです。ダートトラックは、オンロードとオフロードの間のどっちつかずのイメージで、走法や車両についてもその中間かな?、という漠然とした印象を持っておられた方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか?

当コラムではダートトラックの魅力を大いに語る、というコンセプトで、この競技の特徴的なライディングセオリーと個性をご紹介しているつもりですが、使用する車両も当然同じく、"スライディングブレーキ走法" に特化した、スペシャルなセットアップを施すことが、実は非常に重要です。

ダートトラックには専用設計の手頃なレーシングマシン (コンプリート車両) がないため、用意する車両は、主にオフロードスタイルの市販車両からのモディファイが基本となります。トラックコンディションとライダーのスキルレベル次第ではそのままオフロードセットアップでも "乗れないことはない" 場面もありますが、競技・・・ましてレースモードで扱うには、残念ながら様々な面から不適当です。

初心者・経験の浅いライダーこそ、正しい技術・走法を "早く" 身につけ、他人より "速く" 走る・・・リスク区間に費やす時間が減るため必然的に安全レベルが高まる・・・よう、常に "フラットオーバルという状況への最適化" を心がけてください。毎回しつこく書きますが、道具を使うスポーツで、"とりあえずなんでもいい" は、ちょっと、ありえません。

キング・ケニースタイルのフラットダートトレーニングを、一般ライダー向けスクール形式に昇華した "アメリカン・スーパーキャンプ" で、ボディバランスとライディングフォーム確認のために使われる通称 "木馬" 。スーパーキャンプは長年ホンダXR/CRF100・150F・230Fを教習車両としてきたが、近年ヤマハサポートにスイッチ。ホンダ時代同等のパワー・車格での扱いやすさを重視し、TT-R125LWと同230(セロー系エンジン)を使用。

www.americansupercamp.com

Your 1st REAL Racing Bike. 軽量級か?中量級か?

WILLY IVINS

www.superbikeplanet.com

WILLY IVINS

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上の写真2点はキング・ケニーのトレーニングトラック (通称"ランチ = 牛囲い") で、リアアクスルを地面に擦り付けフロントタイヤを浮かすほど鋭い進入を見せる全米プロ選手権ライダー (2018シーズンAFTレースナンバー22) ジェームズ・モナコ。ケニーと同郷の北カリフォルニア・モデスト出身。

車両は日本未発売のブラジルホンダ製ファンライドレーサーCRF150Fまたは230F・ショートストロークのキックスタート年式 (2003~2005年のみ製造の希少モデル) 。吸排気やホイールサイズはノーマルで、タイヤもオフロード仕様のままですが、頻繁にトラック整備にあたる専任スタッフの存在と、トレーニングに最適化されたこのトラックの土質によるところ大、です。

250ccの空冷4バルブ車や、250 / 450ccの水冷4サイクルモトクロッサー、あるいは500cc以上のビッグシングルエンジンの車両は、その扱いに多少の競技経験と、身体能力を維持向上する習慣、不備なく走らせるための日常の整備スキルを身につけてから挑戦するほうが、おそらく無難で有利です。

このスポーツの基本構造の理解を進めながら、新しい参加者が走り始めるのに好適な車両は、車両メンテナンスの手間が少なく (注油と清掃、オイル交換くらいは最初の段階から日々必要ですよ) 、パワー特性が比較的穏やかで扱いやすい4サイクルシングル、100~125ccクラスの軽量級か、2バルブ230cc ~ 最大でも250ccを上限とした中量級の車両たちです。競技に特化したチューニングはすこしずつ進めるものとして、まずは手頃に入手できるこれらクラスの車両を探しましょう。

軽量級マシンの代表格、HONDA CRF100F(写真左)とCRF125F(同右)。"ヒャク" はダートトラックトレーニングにおける名車だが、2013年をラストイヤーに、セル付きでMade in China工場の125Fに代替わり。新型は国内オーダーが年100台限定、プライスタグは30万円だが、新車入手可能な数少ないエントリーモデル。いずれも全長約1,900mmで車重90kg以下。ノーマルホイールは前19・後16インチだがまずは前後17インチ化を勧めたい。

これぞジャパニーズトラッカー!トリコロールカラーが強烈な印象のFTR250 (左・1986-1989) と、そのイメージを復刻させた長寿人気ストリートバイクFTR223 (右・2000-2016) 。高水準の車体設計とパワフルなエンジンが魅力のオリジナル・FTR250だが、良質な中古個体がすでに少なく、維持のためのエネルギーを勘案するに、"最初の1台" としては中古の台数・カスタムパーツの多さからFTR223に軍配が上がる。250は前19・後18インチ、223は前後18インチの "フルサイズ" 。前後19インチレースタイヤ仕様へのアップグレードがベター。

扱いやすい軽量級の"現行マシン"・HONDA CRF125F

新車から製作することができる "軽量級 = ライトウェイトクラス車両" のサンプルとしてモディファイ進行中のCRF125F (2014y) がこちらです。毎週火曜日に川越オフロードヴィレッジで定例開催する、我々FEVHOTSの公式練習日 "オープンプラクティス" でさまざまなレベルのライダーに繰り返し試乗を依頼し意見を取り入れつつ、個人レッスン用スクール車両として貸し出し・日々活躍中。

正直申し上げて名車XR/CRF100Fの水準までレースパフォーマンスを高めるのはまだ難しいところですが、トレーニング用としての需要から中古価格が高止まったままの "ヒャク" の唯一の対抗馬となるため、実戦でのテストを重ね、今後に向けたノウハウを蓄積したいところです。

前後ホイールを17インチ化し、SHINKO製ダートトラックタイヤSR267に換装。フロントリムは2.50サイズでフォークとのクリアランスがぎりぎりのため、ラバー製純正フォークブーツは撤去。小指ほどの細さだった純正エキゾーストパイプは取り外して完全に新造し、腹下にサイレンサーを配するダウンタイプマフラーに変更済み。

リアホイールリムは同じく17インチ・極太MT型3.50サイズを選択。マキシスDTR-1より細身のSHINKOタイヤ + ヒャクより幅広のスイングアームの組み合わせで実現。乗車半日でタイヤ片面が端部までズタボロに摩耗するのは接地面圧が適切な証拠。ドリブンスプロケットはヒャクと共用で、49T(125F純正)に加え数枚を用意する。

転倒による破損を防ぐためシフトレバーは可倒式に変更。各メイカー社外品も多いが、高剛性すぎるものはエンジン側シフトシャフトを痛めやすい。2サイクルレーサーCR85R純正レバーなどで必要十分。鉄スリッパーを履いた状態で確実にフットペグへの加重入力ができるよう、オールドスタイルなベイツ製ステップラバーを取り付け部ベース加工して取り付け。ノーマルのギザギザステップは滑るので不適当だがゴムを巻くなどで対応可。

リアブレーキペダルはフルバンク旋回中にも容易に踏み込めるよう、フットペグより低い位置がマスト。ドラムハブ側でも調整し、"どこまで踏んでもロックしない" ギリギリの案配が扱いやすい。サイレンサーはヒャク用のアメリカ製ダートトラックマフラーを選び、新造したエキゾーストパイプと合わせて装着。ダウンマフラーはリアタイヤやリアショックからの路面の情報がより多く得られ、非力な軽量級でも大変有効なカスタマイズ。

ショートタイプのダウンマフラーに替えたことでエンジンフィールも大幅に向上。なによりダートトラッカーらしい外観に変貌する。同時にフロントフェンダーも取り外してしまうのがスタイル。その理由は諸説あるが、色々な路面コンディションで装着・非装着状態をそれぞれ試せば経験の浅いライダーでも明快になるはず。今後は各種社外キャブレターのテストと合わせてエンジンの過渡特性を少しずつ最適化したい。

手頃な中古車両が"超豊富"な中量級・HONDA FTR223

名車として評価の高いFTR250 (1986-1989) に比べ、非力なファッションバイクとして扱われることも多いFTR223 (2000-2016) ですが、段階的なモディファイを加えることで、そのパフォーマンスは劇的に向上します。223ccという中途半端な排気量も、実はその原型は1970年に "本格的スーパースポーツ車" として発表されたCB90。90ccからメイカー自身の手により、なんと2.5倍!にまで排気量を拡大し、弱点を徹底的に洗い出した、隠れた名作なのです。

というわけで以下3態、それぞれ異なるステージでのモディファイを加えたダートトラックレース仕様のFTR223をご紹介しましょう。個人的にはこれに加えて10ccボアアップ + ハイカムシャフト + バッテリーとセルモーターを取り外した押し掛け仕様が本気のレーサーらしく、大変好みです。

ノーマルエアクリーナーBOX→K&Nフィルターに変更・マフラーを社外品に替えた状態の中古車を入手後、各保安部品と前ブレーキシステムを取り外し、前後ホイールを2.15幅19インチサイズに変更・SHINKOダートトラックタイヤを装着した個体。レーシングタイヤのグリップ特性と、19インチホイールが生み出す強いジャイロ効果をしっかりと体感できる、FEVHOTSが提案するスタートアップ・スタンダード仕様。

1台目のスタンダード仕様から、テーパータイプのダートトラックハンドルバー・容量を抑えたオリジナルアルミフューエルタンク・接地感を得やすい薄いシートパッド + FRPシートカウルが目を引く "第二段階" 仕様。市販車から大幅にポジション変更し、このスポーツに適したモディファイが進行中。その他トリプルクランプ・フォーク・フロントホイールはFTR250からの流用で、ハンドリングを向上させている。前後タイヤは先日FEVHOTSが独自調達をアナウンスした、US DUNLOP DT3をチョイス。

こちらはさらに第三段階・・・というかスペシャルな1台です。1980年代に製作されたアメリカ・KNIGHT RACING製ツインショックレーシングフレーム (総クロモリパイプ + ニッケルメッキ) にFTR223のエンジンを搭載した車両。フューエルタンクとシートカウルはFRP製。今後は前後ホイールをより軽量でスプロケット交換が容易なタイプに変更予定。

いかがでしたか?今回はスペースの関係と前例の豊富さから、HONDA製マシンのご紹介に偏りましたが、各メイカーの100cc~250ccマシンにはそれぞれ秘めた可能性があると言えるでしょう。もちろん向き・不向きや必ず手を入れるべきポイントはさまざまでしょうが、それも趣きのある話ではありませんか?

手頃に入手したポンコツ中古車をコツコツといじって一人前のレースバイクに仕立て上げ、ライダーも正しい知識と技術を身につけて、いざ競技に臨む。そんなロマンと雰囲気のある楽しみ方ができるダートトラックレーシング、機会があればぜひ皆さんにも触れていただけたらと願っています。

今後はより大排気量の本格レーシングマシンとその製作過程なども順次ご紹介する予定です。ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!それでは皆様すてきなGW後半戦をお過ごしください。