長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。無愛想で人付き合いの悪さは天下一品なのに、なぜか周囲に人が集まって・・・
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第29話「摩天楼の口笛」をご紹介。
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@ロレンス編集部

知り合いが突然バイクに目覚めると、ちょっと戸惑うよね

テレビ局を辞めて以来、漫画家を目指してはいるものの、若い編集者の軽侮の視線に耐えかねて、なかなか原稿を仕上げられずにいる。とはいっても多少は働かなければ金も得られないから、友人のバイク屋の手伝いをしている。まあ、正直時間はだいぶ自由になる暮らしをしていると言えるだろう。

その日、金をもらうわけではないが、ときおりコーヒー豆のデリバリーを頼まれている、行きつけの喫茶店の炉煎に立ち寄った私は、店の軒先に停めてある一台のバイクに気がついた。
保安部品もないから、公道を走らせるためのものではない。

いきつけのカフェに停めてあったバイクを見て不審に思う松ちゃん。誰のだ?

まさかマスターが?と不審に思いながら店に入ると、いつもとはうって違って上機嫌な表情のマスターが私を待っていた。やはりそのバイクはマスターが買ったのだという。

「オフでも始めるの?」と私が訊くと、果たしてマスターは「まあね」と相好を崩したまま答えた。

始めるって、マスターが?
私はマスターの返事を聞いても半信半疑の思いを捨てられずにいた。

すると、マスターは「松ちゃん、つきあってくれないか?」という。

つきあうって、なにに?
私は思わず聞き返した。

なぜ急にバイクに乗ろうと思いついたのか、それは訊かない。

バイクになんて興味ないだろうと思っていたが、それは私の勝手な思い過ごしだったようだ。
聞けば、マスターは若い頃はモトクロス選手だったのだそうだ。人は見かけによらない、というより勝手に決めつけるのはよくない、ってことだな。

危ないんじゃない?やめといたほうがいいんじゃない?、とは言わない。
バイクに乗るかどうかは、本人が決めることだから。

次の週末、私はトランポにマスターとバイクを乗せ、郊外のダートトラックのコースへと向かうことになった。

マスターのバイクを荷台に乗せ、行き着いた先は?