「Forty-Eight」。スポーツスターで最も人気のあるモデルのひとつだ。マスコットネームの「48」はスポーツスターのスタイリングの象徴でもある、小さなガソリンタンクに由来するらしい。これは1948年にリリースされた「S-125」という、2ストエンジンを搭載したハーレーに初めて採用されたデザインで、その1948年から「48」と名付けられたとのこと。

ピーナツタンクとよばれる小振りなガソリンタンク。

太いフロントタイヤと軽快なボディのアンバランス

大型バイクのイメージが強いハーレーに、2ストの125ccモデルがあったというのも新鮮だけど、このタンクのデザインは、そもそもスポーツスターらしさを代表するものだから、このネーミングは原点に還るという意味合いが強いのかな。実際に48のスタイリングとしては、前後16インチの太いタイヤの方が特徴的だ。大型ハーレーを象徴するFL系のような太いフロントタイヤと、軽快なスポーツスターとのアンバランスが、48のスタイリングの最大の魅力なのではないだろうか。

1948年といえば、あのパンヘッドエンジンが登場した年でもある。イージーライダーでキャプテン・アメリカとビリーが乗っていたチョッパーもパンヘッドのハーレーだ。この当時からすでに代表モデルであったFLも前後16インチの太いタイヤだった。なので48はやはりこっちの方をイメージしているのではないかな。

太いフロントタイヤがなんともアンバランスでデザインの特徴となっている。

アメリカンバイクながらスポーティな走行性能

そもそもスポーツスターは、ビッグツインと呼ばれるFLやFX系の大型ハーレーに対して、コンパクトなエンジンを搭載したスポーティなモデルという位置づけだったと思う。いわゆるアメリカンバイクの代表であるハーレーは、スポーツバイクとは対極にあるようなイメージがあるが、スポーツスターはワインディングロードでもかなりのコーナリング性能があり、スポーツスターという名はだてではないのだ。

不規則な振動がその気にさせるエンジン

そんなスポーティな系統にあたる48を走らせる。先日試乗したスポーツスター「IRON 883」と大きく違うのは1200ccのエンジンだ。アイドリングするエンジンは883と較べるとあきらかに力強い。またがった状態でもスリムなピーナツタンクの下にのぞく、大きなシリンダーヘッドがブルブルと揺れているのがよく見える。ドルゥ、ドルゥ、と不規則に振動するエンジンはハーレー独特のものだ。IRONの記事でも書いたが、これからハーレーダビッドソンに乗るんだぞ、という気持ちをいやでも思い起こさせる。アイドリングだけでこんな気分にさせるバイクは他にあまりないだろう。

私はバイクのエンジンではVツインが一番好きだ。独特の音や振動がなんだか生き物めいていて、ライダーの気持ちにうったえかけてくるような気がするからだ。その中でもハーレーダビッドソンはVツインエンジンの代表のようなメーカーで、その角度がどのメーカーよりも狭い45度というのも特徴的だ。

進化しているスポーツスターに驚く

私が知るスポーツスターはもう25年も以前のものなので、実は最新のスポーツスターにはかなり面食らった。883と較べるとあきらかにハイパワーなのだが、昔のスポーツスターと違いなんとスムーズにエンジンが回ることか。昔のスポーツスターはアクセルから腕力でパワーをひねり出すというか、乗ってるだけでライダーの腕っぷしを試されるというのか(実際にはそれほどでもないですが…)。いまのスポーツスターは拍子抜けするほど軽いアクセルをひねると、必要ならその強力なパワーを簡単に引きだせる。

そんな古い話をと思われるかもしれない。私がハーレーに乗っていた頃は、ちょうどエボリューションエンジンにモデルチェンジした後で、多くのハーレー好きはそれ以前のショベルヘッドをありがたがったような時代だった。スポーツスターにエボリューションエンジンが搭載されたのは1986年のことなので、すでに30年の歳月が経ち、その間に様々な進化をとげて今にいたっているんだね。

伝統を支える進化というダイナミズム

ハーレーダビッドソンというメーカーは、世界のバイクメーカーの中でも特に伝統を重んじているように感じる。ラインナップは年を追うごとにバリエーションが増えているようだが、基本的なスタイリングや構成が大きく変わることはあまりない。

まさにヘリテージという表現がしっくりくるバイクブランドだ。ただし伝統とはその時代に合わせて進化することで、長い年月を生き残りブランドという価値を支え続けてゆくのだ。ハーレーダビッドソンというバイクの、変わらないところと変わってゆくところがダイナミズムとなり、いまも多くのバイク乗りを魅了しているのだろう。

独特のライディングポジションがその気にさせる48

伝統という視点でみてみると、48はまさに伝統から進化したモデルだ。前後16インチの太いタイヤと低くおさえられた全体のプロポーション。細かいところでは、スポーツスターの特徴のひとつでもある丸いスピードメーターも、大きく寝かせて配置されている。さらにワイドで低いハンドルには、バックミラーがのっていない。なんとハンドルの下にバックミラーが取り付けられている。

バックミラーって公道を走るためには必要な安全装備だけど、これがないとバイクってとってもカッコよくなるんだよなぁ。この頃はバックミラーもデザインの一部として設計されている、スタイリッシュなマシンも多いけど、ハンドルの下に取り付けるとは思い切ったものだね。

この低いプロポーションの48にセットされているステップは、フォワードコントロールと呼ばれる、足を大きく前に伸ばすようなものだ。これはハーレーではソフテイルやダイナ系の一部に採用されていて、それこそイージーライダーに代表されるチョッパースタイルで生まれたものだ。このフォワードコントロールと低いハンドルによる、独特のライディングポジションは、なんともその気にさせてくれる。まさに「ハーレーダビッドソンに乗っているんだ」という気持ちを高めてくれるといえばいいかな。

ライダーのオンリーワンという個性を実現するハーレーダビッドソン

いまのハーレーダビッドソンに乗る機会をいただいて、あらためてハーレーダビッドソンは世界のバイクメーカーでもワンアンドオンリーなメーカーだなと思った。進化に裏打ちされて積み重ねてきた伝統は、他のメーカーでは真似のできないものだろう。

近年のカスタムブームは、オンリーワンを求めるライダーの本質的な欲求から生じているのかもしれない。そんな潮流の中で、ハーレーダビッドソンを選択するというのは、すでにオンリーワンという個性を選択しているのだ。スポーツスターのメーカーカスタムともいえる48に乗ってみて、そんな思いにとらわれるとともに、48をはじめとしたスポーツスターファミリーが、日本の多くのライダーに長く支持されている理由がわかったような気がした。

※「Harley-Davidson IRON 883」の記事もあわせてどうぞ。