僕自身、同ブランドのグローブを愛用しているうえ、ファッションとモーターサイクルのクロスオーバーという、ロレンスの志向と共通する、このブランドのクリエイターに会えることに、常ならぬ興奮を胸にしながら、南青山の店舗にお邪魔した。
南青山7丁目交差点近く。バイク好きの目を引くディスプレイ
南青山7丁目の交差点。
そこから徒歩でわずか十数秒の場所に、その店はある。
ファッションとモーターサイクルの交差点。SHINICHIRO ARAKAWA(シンイチロウアラカワ)の南青山店だ。
落とし気味の照明の店の奥は、外からははっきりとは見えないが、窓際に飾られたMVアグスタ F4が目を引くので、なんの店かはわからなくとも通る人の関心を集めている。実際、僕はこのあたりはよく通るのだが、毎回何かと急いでいて、この店舗がどういう素性かを確かめたことはなかったのだが、いつか時間がある折には寄ってみようと、ずっと心に留めていたのだ。
著名なファッションデザイナーが、モーターサイクル中心のアパレルブランドのクリエイションに転身
SHINICHIRO ARAKAWAは、意識の高いバイク乗りなら知らない者はない、とびきりお洒落なブランドだ。ラグジュアリーブランドも最近ではモーターサイクルがらみのデザインをよく手がけるが、多くはオートバイに乗っているときのためではなく、オートバイを降りたときのタウンユースをイメージして作られている。ラグジュアリーブランドは、ミリタリースペックではない、ミリタリーライクなフライトジャケットを作っているが、それと同じ文法でデザインしているわけだ。
しかし、SHINICHIRO ARAKAWAは、オートバイを降りた時でも使える秀麗なデザインでありながら、実際にオートバイに乗る人間のためのプロダクトをつくっている。タウンユースでありながら、きちんとモーターサイクルスペックをおさえているのである。
創立者の荒川眞一郎さんは、もともとはオートバイ畑ではなく、ファッション業界そのもので頭角を現した、筋金入りのデザイナーだ。それが偶然HONDAのアパレルラインとのコラボレーションを手がけたことから、モーターサイクル専門のアパレルブランドへと転身した。
イメージカラーは赤と黒。特に赤は「ズルい色だから使っている」(荒川さん)
南青山のSHINICHIRO ARAKAWAの店舗は、それほど大きくない。
商品は置いてあるが、Tシャツや小物以外は、基本的にオーダーメイドであり、依頼を受けてからデザインするので、ほとんどの商品はサンプルなのだという。
つまりこの店舗はショールームであり、多くの商品は、Motorimodaのようなセレクトショップなどや、オンラインで販売している。
だからこの店舗は、ブランドイメージを具体的に指し示し、商品の材質や品質を手にとって確かめたいカスタマーにとっての、リアルなカタログの役目を果たしているのである。
店内は基本的に黒ベースだ。そして、差し色として絶妙な形で赤が使われている。
しかも基本的には、赤い長方形(レクタングラー)を一見無造作に思えるようなランダムさで配置し、所々に赤を刺している。
イメージカラーとしてなぜ赤を選んだのか?と訊くと、荒川さんは店舗の裏手から、大きなパネルのようなものを持ってきた。(下の写真)
荒川さんはモーターサイクル関連ブランドに転身する前は、普通のアパレル製品を手がけるファッションデザイナーだった。この作品はその頃のデザインだ。
「パネルから外すとワンピースになります。白や黒を選ぶデザイナーはどこにでもいますが、それだと面白みがない。そこでこの赤を使いました。赤という色は、どこかズルいでしょ?こうやって使ってみると、赤ほどズルい色は他にないんです」と荒川さんは微笑んだ。
ファッション本位からライディング本位と進化してきたプロダクトライン
モーターサイクルブランドに潔く切り替えてから、最初に手がけたのはモーターサイクルを降りたとき使いやすい、テーラードジャケットや日常使いに適したライダースのような商品だった。
見た目は普通のジャケットでも、胸や肘などにプロテクターを仕込むことができるように設計してある。
それが徐々に、モーターサイクルに乗っているそのときにこそ最適化される、まさしく正当なライディングギアのデザイン・販売へと変わってきた、と荒川さんはいう。クリエイターとして、中途半端なものを作りたくない、という情熱がそうさせたのだろう。
ロレンスは楽しく読んでます。(荒川さん)
ロレンスはよく読んでますよ、と、荒川さんは言ってくださった。
「ガチなバイクネタがあると思えば、とてもゆるい企画があって、楽しい」そう言って荒川さんは穏やかに微笑む。
これには、 最大限の賛辞をいただいた、と感激した。
なぜならば、SHINICHIRO ARAKAWAが体現している、ファッションとファッションとモーターサイクルの交差は、ロレンスが目指す、モーターサイクルを軸としたライフスタイルの提案と重なるからだ。荒川さんのクリエイションは、我々が目指すところを先んじて実現している。
実はロレンスとしては、荒川さんにデザインしていただけるような、ロレンスオリジナルのプロダクトをつくってみたいと思っている。デジタルの業界からリアルのモーターサイクル関連のプロダクトを作る、という野望を持っているのである。
荒川さんの生み出した数々の美しいプロダクトを眺めながら、いつかは必ず、と思いを新たにした。