ハーレー・ダビッドソンのミドルレンジ世界戦略車のSTREET™750

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自動車の世界で先行しているダウンサイジングコンセプト

車の世界では、ダウンサイジングという手法が世界的に流行している。
ダウンサイジング、つまりサイズを小さくする。車で言えば、排気量を小さくしたり、エンジンそのものの大きさを小さくする。例えば12気筒エンジンを8気筒や6気筒にする、といった具合だ。当然パワーダウンは免れない。
これは主に燃費向上のためであり、省エネルギーによるコスト削減というエコノミーな目的であると同時に、環境問題への配慮というエコロジーな目的の両立にある。

しかし、燃費を良くするために速さやパワーといった性能を犠牲にすれば、車は単なるトランスポーテーションの手段になる。それでは車好きの支持を失うだけだ。
そこで、自動車業界は、燃費向上のために排気量を小さくすることによるパワーダウンを、小型のターボチャージャーによって補う作戦に出た。これを車の業界ではダウンサイジングコンセプトと呼び、このために開発した小型のターボチャージャーをダウンサイジングターボと呼んだ。

従来のターボ技術は、パワーを補うためではなく、より大きなパワーを得るためのものだ。つまり最高速度や最高出力の向上を目指すものだった。ダウンサイジングコンセプトでは、エンジンを小さくするデメリットを相殺するためにターボを使う。
もともと3000ccで300馬力の車があったとすれば、ダウンサイジングコンセプトでは2500ccに排気量を落としておいて、ターボを追加することで300馬力を維持するわけだ。

この”文法”を、欧州各メーカーはこぞって学び、そして取り入れた。いまではほとんどのブランドが、このダウンサイジングコンセプトをベースとした製品開発をしている。
ターボチャージャーも、大型タービン一つのシングルターボのほうがパワーアップには向いているが、小型タービンを二つつけたほうがコンパクトで燃費もいいことから、いまではツインターボ化が主流となっている。

反面日本メーカーは電気自動車(EV)への進化していく自動車の中間的な存在としてハイブリッド(HV)を生み出し、国内ではそれなりに好調なのであるが、欧州ではダウンサイジングコンセプトに太刀打ちできなくなっている。なぜならハイブリッドエンジンは実は馬鹿でかく、ある程度専用の車体を必要とする。そのために価格が安くならない。燃費の低さはいいが、それでは車両価格の高さをカバーできないのだ。トータルでみるとダウンサイジングコンセプトのほうが安く、そして・・・カッコいい。

エコノミーでありエコロジーであるのにパワフル。この文法が欧州メーカーの好調なセールスを牽引している。経済的で・環境に優しく・力強い=セクシー、であるからだ。

そして、反対に日本メーカー達はHV(ハイブリッド)にこだわるがゆえに、ダウンサイジングターボ車と比べると、割高で不細工、という印象をぬぐいきれずにいる。

V8ツインターボを搭載したメルセデス・ベンツ AMG C 63

openers.jp

ミドルレンジの戦略車投入が続く最近のバイク業界

さて、オートバイの業界に目を向けると、車と同じく ミドルレンジのプロダクトの市場投入が続いているように感じるのだが、これはダウンサイジングの流れ、と言っていいのだろうか。

ハーレー・ダビッドソンは、これまでの最小排気量車種であるスポーツスター(883cc)よりも小さい、750ccクラス(いわゆるナナハンだ)のSTREETというカフェレーサーライクなモデルを発売した。
実はこのSTREETには500ccのモデルもあるのだが、日本では大型二輪免許が必要になり、結局750ccとカニばることが想定されるため、発売されずにいる。欧州各国が600ccまでを中型二輪としていることから、欧州向けの廉価版STREETという位置付けになるのだろう。

このSTREETはインドで製造されているが、インドでは Royal Enfieldが550ccまでの中型車「Bullet」の増産に入っており ハーレーのSTREETを潜在敵としてロックオンして待ち構えている。

欧州車でも戦略車としてリリースされているのは中型車だ。例えばドゥカティは、スクランブラーという800ccクラスの新製品をローンチ している。

しかし、これらの動きは、自動車におけるダウンサイジングコンセプトとは別物、であるようだ・・。

Scrambler

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オートバイ市場を活性化させる文法はなんだろう

自動車におけるダウンサイジングの文法は、車体の大きさを変えずに排気量を小さくする・もしくはエンジンそのものも小さくする(例:6気筒を4気筒にする)、パワーダウンを避けるためにターボチャージャーを使う、である。
例えばハーレーもスポーツスターの車体・エンジン形式のままで883ccから750ccにスケールダウンして、パワーダウンを別の方法で補うというような、四輪における文法の模倣はありえないのだろうか。STREETは成功するかもしれないが、スポーツスターの1-2年落ちの中古と同じくらいの価格であり、STREETはそれらとカニばる可能性がある。

オートバイの場合は(最近のミドルクラスへの関心の強さをダウンサイジングの流れとみるならば)、いまのところは単に500 - 800ccに新製品が集まっているだけのようにもみえるし、(欧州の)免許制度に即した対応のようにも見える。(自動車は排気量によって異なる免許区分がないが、バイクの免許にはそれがある)

2015年現在、日本の各メーカーはMotoGPが1000ccであることからだと思うが、排気量を最大化させず(やろうと思えば世界最速バイクを作るのであれば、1200ccでも1400ccでも採用できるし、そこで絞り出すフルパワーを制御することも容易だろうが)、1000ccを上限としたエンジンユニットを採用したスーパーバイクをリリースし始めている。
カワサキのNinja H2がそうだし、YAMAHAのYZF-R1/R1Mがそうだ。HONDAにいたっては、実際のレーサーのレプリカとしてRC213V-Sの販売を準備している。

世界最速のスーパーバイクの領域では、敢えてMotoGPを想起しやすい1000ccに上限を決めて、自ら制約条件を設定することで、ブランド価値を高める戦略に出ているわけで、これはこれで正しい戦略と思う。
しかしミドルクラスへの新製品投下には、いまのところ、自動車業界が得たダウンサイジングコンセプトのような、活力回復の文法はないように思える。少なくとも、厚みのある市場への製品投下はよいとしても、各メーカーに共通する文法はないのではないか。

車の環境とバイクの環境は違う。それはそうだろう。
しかし、車がやがてよりハイテク化し、EVへとシフトし、さらには自動運転化が進むとしたら、モーターサイクルもまた同じ道を取らざるを得ない。しかし、今のところモーターサイクルの世界には、ダウンサイジングコンセプトも、日本企業のようなHV(ハイブリッド)化も、EVへの期待も、まだまだ本気にはとらえられていないように思うのだ。

実は今日、四大メーカーに勤める人物(それなりに上のポジションである)と議論をしたのだが、例えばハイテクヘルメットを作るSKULLY は、まだまだ実用に耐えない欠陥品とこきおろしたうえで、吹けば飛ぶようなベンチャーだからあんなものが作れる、大手企業である自分たちは責任があってとてもできない、という。

しかし、シリコンバレー的な見方をする身からすれば、SKULLYには大きなチャンスがあり、二輪を安全に楽しむためのイノベーションを起こす可能性があると思う。モーターサイクルをもっと大きな市場にしていく、そして日本が世界市場でこれからも勝ち抜く、という観点からすれば、ベンチャーだからできる、大企業だからできない、という認識はひどく危険なように感じた。

その危機感をもって、このポストを書いている。それがいま、だ。

以上は私見であり雑感である。
ただ、テスラがIT業界の文法を取り入れて自動車産業に参入したように、今の世の中すべてがクロスオーバーしている。専門家が専門馬鹿になっている、ということもありえるのだ。