先週末、モビリティリゾートもてぎで開催された日本GPの、Moto2クラスに参戦したマヌエル ゴンザレス(グレシーニ レーシング)が、キャリア初優勝というめでたいこと以外でも話題になっています。それはレースのグリッド上で着けた"ハチマキ"が原因なのですが・・・。ただ思うに、この騒動は大きくこじれることはなく、収束していくのではないでしょうか(希望的観測ですが)。

初優勝の話題より、この件が注目されるのは残念ではありますが・・・

2021年にMoto2デビューし、4年目の今年はグレシーニ レーシングから参戦中のM.ゴンザレスは、10月6日開催の日本GPでチャンピオン候補最右翼の小椋藍を9週目にパスし、赤旗により12周へ縮小されたレースを制しました。彼にとって5度目となるMoto2の表彰台は、嬉しいキャリア初優勝のメモリアルとなりました。

2002年生まれの22歳のスペイン人ライダー、M.ゴンザレスにとってもてぎは、嬉しいMoto2キャリア初優勝の場所となりました。なお現在のランキングは6位となっています。

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決勝レースのグリッド上でゴンザレスは、「ぐれしーに れーしんぐ」とか「一番」と書かれた日の丸のハチマキをしていました。開催国ゆかりのモノを身に着けたり、ヘルメットに描きこんだりすることは、グランプリでは珍しいことではないでしょう。しかし今回のゴンザレスの行為は、チームのメインスポンサーである中国のQJモーターを刺激することになってしまいました。

10月8日、QJモーターは声明文を同社のウェブサイトに公開しました。

2024年10月に茂木で開催される待望のMOTOGPレースで、QJモーターチームは素晴らしいパフォーマンスを披露して優勝したが、コース上では非常に不和な光景が見られた。グレシーニのライダー、ゴンザレスがレース開始前に主催者の招待を受けて、開催国の「鉢巻」の装飾を許可なく身につけ、ソーシャルメディア上でそれを拡散した。 欧州の選手であるためとはいえ、中国の歴史を理解しておらず、故意ではない行為だが、その振る舞いは中国のバイクファンや国民の国民感情を傷つけた。
事件後、グレシーニ チームの協力を得て初めて真剣に交渉した。銭江汽車はまずグレシーニ チームと交渉し、関連写真と動画を直ちに削除するよう求め、同チームにライダーとの協力関係を直ちに解消するよう要求した。
創業以来、銭江汽車は「クラフトマンシップ、卓越性の追求」という核心理念を堅持し、一台一台のバイクを丹念に作り上げ、高品質、優れた性能、コストパフォーマンスの完璧な融合を目指し、国内外市場で高い評価を得ている。
銭江汽車は常に各種レースに参加し、レースとの協力を深め、レース技術の民間向け車両へのフィードバックを実現し、レースで運動し、学び、レースがもたらす喜びと感動を分かち合う。

親が第二次世界大戦後生まれで、過去の戦争と自身はまったく関係がないと考える人には、洋の東西を問わず「なんで日の丸のハチマキごときで、ライダーの即時解雇を要求するの?」と考えるでしょう。ただ日中戦争時代に侵略された側の中国側の感情としては、日の丸のハチマキはそれを頭に巻いた旧日本軍のトラウマに結びつくものなのです。

SNS上では、レースファンが論戦?でアツくなっていますが・・・

X(旧Twitter)やredditなどのSNSでは、国内外のレースファンがこの件について言及しています。多くは若きゴンザレスに同情的で、自由主義陣営側目線からの中国共産党への悪感情もあってか、QJモーターを口汚く罵る書き込みも少なくありません。

一方で海外のSNSには、中国企業の協力によって参戦しているのだから、スポンサーへの配慮は必要であり、チームのマネジメント側の問題という意見も散見しました。またスワスチカ(鉤十字)の腕章をしたライダーが、ドイツGPのグリッドに並んだら・・・という例えを出して、QJモーターの怒りに一定の理解を示す人もいました(さすがにスワスチカほど日の丸への嫌悪感はないでしょ、と思いもしましたが、西欧人的にはこの例えが一番ピンとくるのも理解はできます)。

英語版Wikipediaより。1945年の旧軍特攻隊員を写した一葉。

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また若く、各国の歴史に対して知識がないライダーたちへの教育の必要性を唱える声もありました。モータースポーツよりはるかに多くレイシズムが持ち込まれることがあり、人が死ぬ事件の発生例まであるサッカーの世界では人種差別に対する処分が厳しく設定され、FIFA関係者からの啓蒙も比較的盛んといえるでしょう。もっともフーリガン的観客はモータースポーツの場には基本存在してはいませんが・・・。

アジア市場の成長もあって、今後アジア圏でMotoGPが開催される機会は増加することが予想されます。ライダーやチーム関係者、そして各国のレースファンには、関わりが増えていくであろうアジア諸国の人々と歴史を理解する努力が、より求められていくのかもしれません。

この騒動が良い方向に収束することを願います

若きゴンザレスのこの後の処遇がどうなるかはまだ定かではないですが、QJモーターの声明文を読んでみると彼が故意・・・中国人を侮辱する意図はなかったと理解していることはわかります。楽観的かもしれませんが、ライダーとチームの謝罪でQJモーターは「矛(ほこ)を収める」のではないかと思います。

最悪のケースは彼が解雇されて今シーズン残り4戦を走れなくなることですが、ゴンザレスはすでに来シーズンのMoto2はインタクトGPチームで走ることが決まっています。憶測ではありますが、即解雇を要求するというQJモーターの要求は、チームに対する最大限の抗議という意味に過ぎないという可能性もあります(そう願います)。

ホームストレートでMoto2マシン(カレックス)のフロントホイールを浮かせ疾走するM.ゴンザレス。この騒動が彼のキャリアに傷をつけるものではなく、彼のためになる、ひとつの経験となることを願いたいです。

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もてぎでの騒動といえば、ひと昔前・・・2013年に元MotoGP王者のマルク マルケスは、スランテッド アイズ(吊り目)のジェスチャーをする自身のイラストをヘルメットやTシャツにあしらい、そのことが問題視された一件がありました(すぐに謝罪して解決しましたが)。

スランテッド アイズは東アジア人を侮辱するジェスチャーですが、悲しいがな悪意なくこのジェスチャーをする外国の人はまだ世界に多く存在します。しかしマルケスの一件以降は、少なくとも公の場でこのジェスチャーが披露されることはMotoGPの世界ではなくなっています(というか、それが許容されることはないでしょう)。このゴンザレスの一件も、きっとひとつの学びとして、これからのモータースポーツの世界に活かされることになると思います。