一般的にモータースポーツとはヒト対ヒトの競い合いのみではなく、操るマシンの性能差 + 操縦者のパフォーマンスなどの総合力が問われることがほとんどですが、その雌雄を決する場面で価値ある一助をなす様々な技術的工夫 (時には驚くほどの奇策もあります) は我々の目を大いに楽しませてくれます。今回は本場AFTのレースの現場を彩るいくつかの "トリックパーツ" をご紹介しましょう。

希代の珍仕様?現役王者ミースが駆った、伝説の名車XR750の "最終形態"

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。本日まず始めにご紹介したいのは、こちらの写真のマシンです。

インディアンFTR750の誕生前夜、チューニング次第ではトップスピードでハーレーダビッドソンXR750を上回り、軽量コンパクトで俊敏・しかもより廉価で仕立てることができると評され、一時は半数以上のライダーが選択したカワサキ・ニンジャ650をねじ伏せるため、時のチャンピオン (今も現役トップランカーですが) ジャレッド・ミースがケニー・トルバート (かつてクリス・カーと組んだ名チューナー) と共に作り上げた、"ベアナックル・スペシャル" などとも呼ばれる異形のXR750です。

XR750のスタンダード仕様は前後2つの気筒とも右後方吸気・左前方排気で、車体右側ちょうどライダーの右足内側付近に二連装キャブレターと大型のK&Nエアクリーナー、同じく車体左側にツイン・エキゾーストパイプ (排気管) がレイアウトされますが、車体を押さえ込む上でそれら左右の張り出しは、特に小柄なライダーにとっては決して望ましいものではありませんでした。

運動性に勝る部分の多いカワサキ650と、それを駆る親しい友人にして最大のライバルであるブライアン・スミスに対抗するため、ジャレッドらが用意した車体は、後側気筒の吸排気方向を反転させて前バンクと真逆の左前方吸気 + 右後方排気レイアウトとし、車体をスリム化して下半身でのホールド性を高め、狭いスペースでのタックインを容易にする奇抜なレイアウトでした。

後ろバンクの排気レイアウトとかかなり無理している感もありますが、この "最終形態" はほぼ狙い通りのポテンシャルを発揮。敗れこそしましたがカワサキ + ブライアンとの2016シーズンを通しての死闘は、最終戦決勝・最終ラップ・最終ターンまで縺れ、わずか0.3秒差で決着する歴史的な一幕となったのでした。

カチっと効かないブレーキと左右非対称フットペグの優位性たるや・・・

一般的なレースレギュレーションとして、ハンドル周りの左右対称性が厳しく求められるダートトラックマシンですが (滑る路面でのイレギュラーに即応するため?極力"滑らせ"ず深いバンク角で対応する我が国のオートレーサーとの違い、だと筆者は理解しています) 、足元周りの左右非対称レイアウトと驚くほど "効きの甘い" リアブレーキユニットは、より高度なパフォーマンスを目指すなかで生まれた "優れた退化" のひとつと言えます。

左右どちらにも同じくらいターンするマシン (公道・ロードレース) 、ジャンプするマシン (オフロード) 、直進のみに特化するマシン (スピードレーサー・ドラッグレーサー) なら左右均等に加重できる対称な位置にフットペグをレイアウトすることは当たり前ですが、真横とか斜め前に滑りながらマシンを進める区間の多いダートトラックマシンには、この前提は当てはまりません。

ターン進入で深いバンク角を作り出すため (フットペグの接地を回避) 、あるいはターン脱出で滑りつつも斜め前方に向かっていち早くマシンを前進させるため、公道用を含めた他カテゴリーのマシンに比べ、ダートトラックマシンのフットペグは左高右低、しかも左後右前がスタンダード位置です。切り詰められた左フットペグにばかり目が行きがちですが、右側はかなり低く前方にレイアウトされます (街乗りとかで直進していたら多分ちょっと気持ち悪いレベルで) 。ライダーの体格と好みのライディングスタイルに応じていくらかの調整幅は持たせてありますが、"ターンを重視して斜めに踏ん張る" のが基本形といっていいでしょう。

やたらと長く見えるブレーキアームも特徴的な装備です。深く踏み込んでも後輪をロックさせることなく微細に回転速度を調整でき、加速時であっても使用してエンジンの力をより効率的に路面へと繋げるなど、その使用方法の幅は (おそろしく効きが甘いわりには) 極めて重要な意味を持っています。

ロードレースでも目にするクランク・スターター、発祥はオーバルだった?

いまやmotoGPでもよく見かける "クランク直回し型エンジンスターター" の一般化は、GNCプロダートトラック選手権でそれを目にした某GPエンジニア氏が持ち帰ってから本格的にブームが始まったようです。150kg超のマシンを押したり引いたり、高圧縮エンジンの内部ギアーが砕けるほどガチャガチャとキックしまくったりするよりはるかに合理的。

レースのグリッドにつく前になかなかエンジンかからず呼吸があがることもなし、良いことずくめのアイテムです。車体側に機密性高くシールされたスターター受動部のソケットを設置しないとなりませんけど・・・。

オールドレーサーを現代的手法でぶっ飛ばす!?のもアリ寄りのアリアリ

シンプルな構成のヴィンテージマシンに、現代的な手法で隅々まで手を入れ、より扱いやすく研ぎ澄ませていく取り組みも、ひとつのスタイルと言えるでしょう。

こちらはプロ選手権AFTではなくカリフォルニアのローカルレースシーンからの一葉ですが、右チェーンの空冷2ストローク、多分40年ちょっと前のホンダのモトクロッサーエンジンを搭載して現代的手法をまぶしてパリっと仕上げた "チョーお金持ち仕様" のダートトラッカー。前後ホイールは最近流行のアルミ削り出し、エンジン上側の整流板とか各種外装パーツにはカーボンパーツを多用。ショートトラックで走ってるところ見たことありますけど、現役トッププロの乗る450ccDTXと互角のパフォーマンスでしたよ。ライダーは元GPライダーのジョン・コシンスキー。極度の潔癖症と聞いたことがあるんですけど、ダートオーバルの埃っぽいのは平気なんでしょうか?

現代的な最適解?AFTスタンダードの車両構成から得られるヒントは・・・

気づけばインジェクション仕様・チューブレスタイヤ装備がスタンダードとなったAFTの2気筒クラスですが、タンク (カバー?) に描かれたメイカー名を見ないとどこのマシンだかよくわからないほどに、その外観は洗練され標準化されてきました。

こちらのKTM車も例に洩れず、ダウンドラフト式のフューエルインジェクター (燃料噴射装置) を採用するエンジンを搭載し、燃料タンクを可能な限り車体中央近くにレイアウトするため細身の丸パイプを組み合わせたツインスパーフレーム、着座位置の調整にも効果的な別体シートレール、この四半世紀ずっと主流のカンチレバー式リアショック、ラジエター取り付けスペースを確保したフレーム形状、リアのみ重めの削りホイールなど、よく見るスタイルの全部乗せ状態ですが・・・乗車位置とか重量配分の基本は、伝統的なフレーマー (どちらかというと単気筒マシン?) のそれに極めて似ています。

走る路面とかライディングロジックがほとんど変わらないから当然の進化とも言えるのでしょうが、搭載するエンジンとかタイヤが変わっていくことで、骨格そのままに外観だけは大きく様変わりしているのが興味深いです。この調子ならやがて電動化しても・・・嫌気なしに皆向き合えるかな?

そういえば今日から数日後、我が家に電動の何かが届くらしいんですよ。今から楽しみです。
そのお話はまた今度。
ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!