3月16日、フランス・パリで開催された見本市「オートノミー」会場にて、欧州ヤマハ(ヤマハモーターヨーロッパ)が2018年からスクーターシェアリング事業をスタートさせているフランスの「トルーピー」とパートナーシップを結んだことを公表しました。トルーピーは彼らの事業の「100%電動化」を目指しており、ヤマハはトルーピーにヤマハのICE(内燃機関)125cc相当の電動スクーターである「E01」と、同50cc相当の「NEO'S」を供給することになります。

華麗なる一族!? フランスのシャパ・グループ

フランスで80年間、2&4輪自動車や部品を輸入するビジネスを展開してきたシャパ・グループ(グルプ・シャパ)は、そもそも1835年に南フランスのベジエに創業したコーチビルダーがルーツという歴史ある企業です。1918年にはルイ・シャパが首都パリに進出することを決め、1996年には開業の地であるベジエでの活動を停止。以来、シャパ・グループはパリをメインに発展を続けています。

余談ではありますが4世代目にあたるクリスチャン・ビラセカは、1963年から同グループのホンダ事業(ジャポート・ホンダ)を開始。彼らはレース活動も熱心に行い、ルマン24時間やボルドール24時間でのジャポートの活躍は、フランスにおけるホンダ車人気を盛り上げることに貢献しました。

1972年のボルドールを制した、ロジャー・ルイス/ジェラルド・デブロック組のジャポート・ホンダ。同チームの耐久レーサーは、4-1集合管(ドレスダ製)を採用したロードレーサーの最初期のもののひとつとして歴史にその名を刻んでいます。

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1999年には、ジャポートの競争相手であったヤマハ・パトリック・ポンスをシャパ・グループが買収。現在は第5世代のビラセカ兄弟たちが3つに事業を分割しており、アリーがホンダと起亜ブランドを担当。経営委員会会長も務めるセドリックがジャポートとダイネーゼの店舗を担当。そしてアクセルがヤマハ・パトリック・ポンス、トライアンフ、BMWなどの2輪を担当しています。

規定路線!? だった、トルーピーのヤマハ製2EV導入・・・?

この度欧州ヤマハとパートナーシップを結んで、ヤマハ製電動スクーターを導入することを決めたシェアリングサービス提供業者である「トルーピー」は、2018年にシャパ・グループが立ち上げました。シェアリングに使用するのは、ヤマハのLMW技術を採用する3輪モデルのトリシティ125で、パリ20区とその周辺一部エリアにてサービスを提供中です。

39リットル容量トップボックスなどを備えた、トルーピーのヤマハトリシティ125。サービスはパリ区部の大部分と、イル=ド=フランス地域圏で提供されており、登録料無料で0.33ユーロ≒44.7円/分(保険料込み)で利用することができます。

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つまりトルーピーと欧州ヤマハは、サービスで使用するトリシティ125の技術サポートですでに協力関係にあり、今年3月に公表された電動スクーター提供もある意味既定路線・・・なのでしょう。

昨年の1月、シャパ・グループはパリのグランド・アーミーに米ゼロ・モーターサイクルズの電動バイクと伊アスコルの電動スクーターに特化した2EV専門店をオープンしています。その際、現地メディアの取材に対して、シャパ・グループのアクセル・ビラセカはトルーピーの独占サプライヤーであるヤマハの電動車に、2022年から提供車両を切り替えることを明かしていたのです。

シャパ・グループが2021年にオープンさせた電動車専門店「ゼベカン・パリ」。安価さなどでメリットある中国などの2EV製品ではなく、信頼性と部品供給の確かさから米ゼロと伊アスコルの両ブランドを取り扱うことを決めたと、担当のアクセル・ビラセカは語っています。

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電動化の波が押し寄せつつある、フランス・パリの交通環境事情

シャパ・グループが2EV専門店を昨年オープンさせたり、今年からヤマハのE01やNEO’Sといった電動スクーターによるサービス提供を開始する背景には、首都パリなどの都市部に対するフランス行政の厳しい環境規制があります。

2017年1月よりパリでは、2輪、4輪乗用車、トラック、バスなどすべての車両に、Crit’Air”=クリテール・ステッカーを貼ることを義務化しました。クリテールとはCertificat qualité de l’ai=大気質証明を意味しており、ICEの種類、登録年、汚染物質排出量などに応じて6種類に分類されたステッカーをそれぞれの車両に貼ることで、パリ市内への乗り入れに関する様々な規制をそれぞれの車両に適応するという制度です。

6種類のクリテール・ステッカー。この制度はパリ市内、パリ首都圏、リヨン都市圏、そしてグルノーブル-アルプでまず導入され、2021年からは新たにフランスの7都市圏も規制対象のZFE-m(低排出地域)に加わりました。

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さらにパリは2024年にディーゼル車、そして2030年にガソリン車の乗り入れを禁止することを予定しています。パリを本拠に各種自動車関連ビジネスを展開しているシャパ・グループとして、「100%電動化」の取り組みを加速させることは、生き残りのために必要な喫緊の課題といえるでしょう。

またシャパ・グループは2018年9月には、起亜製EVに特化した世界初のショールームをパリのグランド・アーミーで運営しています。パリの「脱ICE化」は各種自動車関連業によっては対応せざるを得ない問題であると同時に、新たなEV需要に応えるというビジネスチャンスでもあるのです。

トルーピーに導入されるヤマハE01(左)とNEO'S。両車ともにトップケースを装備。NEO'Sには、フランスなど欧州で人気のアクセサリーであるTablier protection=保護エプロンが付いています。なお欧州ヤマハのリリースによると、実証実験が欧州、日本、台湾、インドネシア、タイ、マレーシアで行われるE01は、最初のロットとして500台がヤマハ発動機の磐田工場で生産される予定とのことです。

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「オートノミー」会場にて、欧州ヤマハ=ヤマハモーターヨーロッパ社長兼CEOのエリック・デ・セインヌ(左)と握手を交わす、トルーピーCEOのアクセル・ビラセカ。

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ヤマハとしては、欧州市場向け電動スクーター第一弾となるNEO'Sのアピールや、E01市販化に向けての実証実験の場を大都市のパリに得ることができ、トルーピーとしては信頼性の高いヤマハ製2EVでシェアリングサービスをパリなどで展開できる・・・つまりこの度のパートナーシップ締結は、WIN-WINな関係ってことですね。

パリに限らず今後は、欧州各地の大都市圏で環境規制強化によるICE車乗り入れ禁止という措置が広がっていくことが予想されます。その最前線のひとつであるパリで、欧州ヤマハとトルーピーの試みがどのような成果を得ることになるのでしょうか? 注目したいです。

環境問題については欧米追従型・・・といえる今現在の日本にとっては他人事のように聞こえる話題ではありますが、彼らの試みの行方は私たちの将来の都市交通のあり方を考える上で、大いに参考になるのかもしれません・・・。

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