なんのことはない、前走車からのルースト (後輪が後方に巻き上げる土塵) を浴びてガサガサに肌の荒れた、どこにでもありそうな?メイカー出荷時650ccのカワサキ2気筒エンジンを搭載したダートトラックマシンのディテール写真ですが、しつこく眺め続けていればいくつかの "やや普通じゃない" ポイントに気がつく方もいることでしょう。

"ハイレベル変なとこ探し" !?慣れれば5箇所くらいはまぁ易々と・・・

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。まだまだ薄ら寒い日々が続いてますが、筆者は今年に入ってから写真や資料を眺めたり、次なるマシンの気になる箇所をどうイジるかボヤっと計画を立てるくらいしか (個人的なプロジェクトは) 前進していません。やれやれのトホホですよ。そんな静かな自習期間中に偶然見つけたこの1枚の写真、ダートトラックらしさの欠片がわんさか見うけられる、お得?な資料だったのでご紹介しましょう。

"ストローカー" で排気量アップ!ボアアップよりロングストローク化

649cc〜800ccの市販エンジン搭載車両で競われるAFTプロダクションツインズ・クラス。こちらのカワサキER-6 (ニンジャ650) はベース車両として最も排気量が小さい部類ですが、他メイカーの様々な車種に対抗し、排気量を (おそらく規定ギリギリ800ccまで) 拡大。直径の大きいピストンを組み込む "ボアアップ (= 相対的にショートストロークになる)" ではなく、ピストン径はそのままで、ピストンストローク距離を増大させるロングストローク化によって、ダートトラックレーシングにより好適なパワー特性を求めているようです。写真左上、シリンダーブロック下部に見える色の違う帯状の部分が、"ストローカー" によって下駄をかまされたエンジンであることを示しています。

クランク直回し式スターターのソケット差し込み部は手練のオリジナル!

冒頭写真ほぼ中央、クランクケースカバーの中心に見える四角形のソケット差し込み部は、元来のノーマルエンジンには全く存在しません。クランクシャフトに直接回転力を加えてエンジンを始動する、外部スターターを使用するためのアクセスホールは、熟練のエンジンビルダーによって増設されたものです。この一見荒っぽいエンジン始動方法は、後輪を回して回転力をエンジンに伝えるスタイル (いわゆる押し掛け形式) よりはるかにパワーロスが少なく、短時間でより確実に始動することが可能であり、今日ではmotoGPなどでも積極的に採用されています (GPのエンジニアがAMAダートトラックを観戦した機会にこの機構のGPマシンへの転用を閃いた、という説あり) 。

四輪用セルモーター + 大容量バッテリー。これでエンジンかからなきゃ多分どっか具合悪いんですよ。

フルバンク時のエンジン接地を防ぐため、ケースカバーの下側を削ります!

同じくクランクケースカバー中央下側。旧車ロードレースなどでも並列2気筒以上のエンジンではしばしば見かけますが、バンク角確保のためにエッジ部分を斜めに削ぎ落してフタをしてあります。ダートトラック?土の上でしょ?と侮る勿れ、スパーンと寝かせてガーン!とエンジンが接地し過ぎましたら、あらいやだリアタイヤ浮いちゃいますからね!そう易々とは擦らないほうがいいのです。

こちらは名匠ロン・ウッドがその生涯の最後に手掛けた、ホンダCRF1000L "アフリカツイン" エンジン搭載のダートトラッカーです。マットゴールド色の左側クランクケースをご覧ください。下端部分に接地して色ハゲした箇所があります。

このマシン、初登場が数年前だったのですが、当時このことがあちらでは大変話題になりまして、レイアウト的にこれ以上車体右側にエンジンをオフセットさせることもできず、メカニカルなエンジン内部の構成上、接地する部分を削るとかの余地も全然なかったらしく、数戦走った以降はお蔵入り・・・まぁどのみちコロコロ競技規則を変えるAFTのおかげ (排気量規制&謎のクラス分断) で現在は出走できないんですけどね。いろいろ勿体ないな・・・。

アンダーフレーム前下側に穴が空かないよう、ビニールテープで保護!

前走車や自分のフロントタイヤがまき散らす "ルースト" (語源はルースターテイル = 雄鶏の尾羽) は散々にマシンを痛めつけますが、頑丈なエンジンクランクケースなどに比べれば、フレームを形づくる薄肉クロモリパイプは下手をすると巣穴ができ、そこからバリバリと割れたりなんかもしますので、転ばぬ先の杖、走行毎に張り替えるくらいのつもりでテープ類で覆ってしまうのも一工夫です。

ちょっと違いますけど金属同士が一日何度も触れる箇所にもこのくらいの気遣いとか。

まるでサンドブラストを浴びたかのような。そうそう、振動でカチ割れたりすることもママあるので、現場補修の簡便さと性能面での折り合いから、ダートトラックレーサーのエキゾーストパイプは (ステンレスですらなくて) ド鉄のパイプ、が本場では最もメジャーです。

伝統のラバーフットペグは貫通ボルトでカッチリ固定!

いわゆるオフロードバイクに標準装備の "ギザギザステップ" 以上に、前後左右どちらからでも入力しやすいのが伝統的なラバーフットペグ。こちらもただ差し込むだけじゃなく、先端とか側面貫通とかでステップ本体にラバーをネジ止めしてしまうのが、よりスマートで合理的かと思います。

いかがでしたか?1枚の写真からでもずいぶん沢山読み取れることってあるものです。ページ数多ければきっともっと、なのでしょうけど。そうそう!昨年末にご紹介しました "アメリカンホンダとダートトラックレーシングの歩み" by Motion Pro の豪華500ページオーバーの特装本、いよいよ入荷しましてプレオーダーいただいた皆様に配本開始しました。本日あたりお届けになるはずです。

お手元までの送料込みで国内定価40,000円。お安くないので多く確保することはできませんでしたが、実は手元に在庫がまだ数冊ございます。悩んだけどハヤシの言う予約期間が過ぎちゃって泣く泣く諦めた・・・という方、もしや手に入れるラストチャンスかも?ご検討よろしくお願いします!

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!