1923年からその歴史をスタートさせた、フランスの自動車部品メーカーのヴァレオが、世界最大のテクノロジー見本市であるCES 2022(米国・ラスベガス、2022年1月5~8日開催)に、小型2輪EVプロトタイプを展示しました。気になるのは、このヴァレオ製プロトタイプの車体に、Vmoto Super Soco TC maxのものが流用されている点です・・・!?

ヴァレオをご存知ない方のために、その歴史をちょっとだけ紹介します

そもそもヴァレオの歴史は、1923年にブレーキ・クラッチ部品を主に製造販売する英フェロードのフランス支社として、パリ郊外のサントゥアンに開設されたソシエテ・アノニム・フランセーズ・デ・フェロード(SAFF)からスタートしています。

第二次世界大戦中、ノルマンディーとサントゥアンのSAFFの生産拠点は多大な被害に遭いましたが、1950年代にはノルマンディー工場を再建し、アミアンに新工場を建設。1960〜1970年代にはSOFICA、パリ・ローヌ、シビエ、SEVマルサルといったフランスの部品メーカーを買収して成長。ブレーキ・クラッチだけでなく、空調、電子部品、灯火類、電装も扱う総合自動車部品メーカーとして活躍するようになりました。

1980年5月、イタリアの子会社の名前であるヴァレオ(ラテン語で「私は元気です」の意味)を、新しい統一ブランドとして採用。1985年にはスペイン、イタリア、ドイツ、ブラジル、そして日本に現地法人を設立しています。現在日本では、ヴァレオジャパン(写真、埼玉・江南工場)、ヴァレオカペックジャパン、市光工業の3社がヴァレオグループ企業として活動しています。

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2020年時点でヴァレオグループは、世界33カ国に187の生産拠点、20ヶ所の研究センター、43ヶ所の開発センター、15ヶ所の物流センター、そして110,300人のスタッフを擁し、幅広く事業を展開しています。ヴァレオグループにとってもカーボンニュートラル関連技術開発は一番に取り組むべき課題となっており、近年はヴァレオが開発した、手頃な価格で提供が可能なハイブリッドおよびEV用48Vシステムが、多くのメーカーから注目を集めています。

2019年にヴァレオジャパンと群馬大学が共同で作った、日本初の48V EV 4WD軽トラック。ヴァレオの48V・15kwモーターを前後軸に1つずつ配置。最高速100km/h、航続距離100kmが目標値です。

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この小型2輪EVプロトタイプにも、ヴァレオの48Vシステムが採用されています

去る1月、ラスベガスのCES 2022に展示されたヴァレオの小型2輪EVプロトタイプは、2輪EVに関心ある方であれば一瞥してすぐに、その車体がVmoto Socoグループの製品であるSuper Soco TC maxのものであることに気付くでしょう。

CES 2022の、ヴァレオグループの屋外展示ブースに置かれた小型2輪EVプロトタイプ。ヴァレオのブランドカラーである緑の印象が鮮烈です。・・・どうでもいいことですが、左右のバックミラー鏡面の向きがヘンなのが気になります(苦笑)。

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Vmoto socoグループのSuper Soco TC maxは、航続距離110km(75kgのライダーが、45km/hで走行した場合)、最高速95km/hというスペックを持つ人気小型2輪EVです。なお日本では、XEAM(ジーム)が日本正規総代理店として取り扱っています。

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「これはTC maxの新しいバリエーション?」と勘違いしてしまいそうですが、TC maxが60Vバッテリー、定格3.9kw(ピーク5kw)のモーターを搭載しているのに対し、ヴァレオのプロトタイプは同社のハイブリッドおよびEV用48Vシステムをベースとするパワートレインを採用しています。TC maxの車体を使っているのは、ヴァレオ製小型2輪EV用パワートレインの汎用性の高さを、アピールするのが最大の目的といえるでしょう。

ヴァレオの小型2輪EVプロトタイプに搭載される小型軽量(17 kg未満)パワートレインシステムは、48V空冷式電気モーター、ベルトドライブ機構、制御システムを統合したものです。なおヴァレオは、すでに準備中の次世代型では遊星ギア減速機構を採用予定で、伝達効率をさらに向上させることを狙っていると明かしています。

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ヴァレオ製小型2輪EVのピークパワーはTC maxの約2倍の9.4kwで、ICE(内燃機関)車125ccクラス相当の動力性能を発揮します。最もヴァレオとして主張したいのは、ICE車を大きく上回る環境性能と高効率ぶりであり、リリースにはCO2排出ゼロ、そして電気モーターが発生させたパワーの90%以上を後輪に伝達できるという文言を、誇らしげに記しています。

ヴァレオ製48V小型2輪EV用パワートレインを、採用したメーカーは多いのでは?

リリースには明言していませんが、ヴァレオは小型2輪EV用パワートレインを開発したものの、自社が2輪製造業に進出することは考えていないと思われます。これまでヴァレオは自社の「48Vテクノロジー」を用いてファミリー用プラグインハイブリッド車、2人乗り都市型EV、6人乗り自動運転シャトルバス、ICE125cc相当のEVスクーターなどの試作車を作ってきましたが、あくまでもヴァレオが担うのは48Vシステムのサプライヤーとしての役目であり、自らがメーカーになることは志向してはいません。

2020年にヴァレオが発表した、48Vシステムを使ったE-バイク用ドライブトレイン。フランスのエフィギア社と共同開発した48Vモーター、7速自動変速、制御系からなるこのシステムは、130Nmのトルクによってペダルの踏力の8倍の力をアシスト。カーゴバイクに同システムを搭載した場合、150kgの荷物を積んで14%勾配をあがるときでも、汗ひとつかくことなく進める・・・とヴァレオは主張します。

ヴァレオは48ボルトのE-バイク用ドライブトレインを発表したときのリリースに、ヴァレオが目指すのはE-バイクに搭載する電気ソリューションを提供することで、E-バイク自体を製造することではない、と明記しています。小型2輪EV用パワートレインについても同様に、多くのメーカーが採用しやすい価格と性能を両立した"ソリューション"の提供をするのが目的なのでしょう。

48Vシステムの優位性・・・とは?

ところで、なぜヴァレオは既存のハイブリッド車やEVで広く使われている60V以上の高電圧ではなく、低電圧の48Vシステムを軸に据えているのでしょうか? 大きな理由のひとつは、コストを廉価に抑えることができる・・・からです。

60V以上の高電圧システムは、危険性排除の観点から絶縁システムを施すことが法律で義務つけられていますが、低電圧の48Vは電線の周囲を特に保護する必要がなく、自動車電装で広く普及している12Vと同様に扱うことができます。そのため、48Vシステムは絶縁部材を省けるので、高電圧システムより軽量かつ安価で提供しやすいのです。

ヴァレオの48V・電動全輪駆動ハイブリッドシステム搭載車。60V以上の高電圧システムよりも、平均20%手頃な価格で提供できるシステムであることを、ヴァレオは主張しています。

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極力電圧を高めにして、電流を少なくすることで発熱を抑える・・・というシステム設計の考え方もありますが、ヴァレオは低電圧な48Vシステムでコストを抑えつつ、共通のアーキテクチャで構築されたハイブリッドシステムやフル電動ソリューションを提供することで、小型のハイブリッドやバッテリーEV、そして2輪EVやE-バイクを安価に作りたいメーカーの期待に応えることを狙っているといえます。

車体は作れるけど、資金的にパワートレインまで自社開発・製造するのは難しい・・・という2輪EVのスタートアップ企業にとっては、ヴァレオの48V小型2輪用パワートレインはとても魅力的な「製品」になるのではないでしょうか? 今後のヴァレオの小型2輪用パワートレインの発展に、期待しつつ注目していきたいです!

CES 22 - 48V Motorbike

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