ヴァレオをご存知ない方のために、その歴史をちょっとだけ紹介します
そもそもヴァレオの歴史は、1923年にブレーキ・クラッチ部品を主に製造販売する英フェロードのフランス支社として、パリ郊外のサントゥアンに開設されたソシエテ・アノニム・フランセーズ・デ・フェロード(SAFF)からスタートしています。
第二次世界大戦中、ノルマンディーとサントゥアンのSAFFの生産拠点は多大な被害に遭いましたが、1950年代にはノルマンディー工場を再建し、アミアンに新工場を建設。1960〜1970年代にはSOFICA、パリ・ローヌ、シビエ、SEVマルサルといったフランスの部品メーカーを買収して成長。ブレーキ・クラッチだけでなく、空調、電子部品、灯火類、電装も扱う総合自動車部品メーカーとして活躍するようになりました。
2020年時点でヴァレオグループは、世界33カ国に187の生産拠点、20ヶ所の研究センター、43ヶ所の開発センター、15ヶ所の物流センター、そして110,300人のスタッフを擁し、幅広く事業を展開しています。ヴァレオグループにとってもカーボンニュートラル関連技術開発は一番に取り組むべき課題となっており、近年はヴァレオが開発した、手頃な価格で提供が可能なハイブリッドおよびEV用48Vシステムが、多くのメーカーから注目を集めています。
この小型2輪EVプロトタイプにも、ヴァレオの48Vシステムが採用されています
去る1月、ラスベガスのCES 2022に展示されたヴァレオの小型2輪EVプロトタイプは、2輪EVに関心ある方であれば一瞥してすぐに、その車体がVmoto Socoグループの製品であるSuper Soco TC maxのものであることに気付くでしょう。
「これはTC maxの新しいバリエーション?」と勘違いしてしまいそうですが、TC maxが60Vバッテリー、定格3.9kw(ピーク5kw)のモーターを搭載しているのに対し、ヴァレオのプロトタイプは同社のハイブリッドおよびEV用48Vシステムをベースとするパワートレインを採用しています。TC maxの車体を使っているのは、ヴァレオ製小型2輪EV用パワートレインの汎用性の高さを、アピールするのが最大の目的といえるでしょう。
ヴァレオ製小型2輪EVのピークパワーはTC maxの約2倍の9.4kwで、ICE(内燃機関)車125ccクラス相当の動力性能を発揮します。最もヴァレオとして主張したいのは、ICE車を大きく上回る環境性能と高効率ぶりであり、リリースにはCO2排出ゼロ、そして電気モーターが発生させたパワーの90%以上を後輪に伝達できるという文言を、誇らしげに記しています。
ヴァレオ製48V小型2輪EV用パワートレインを、採用したメーカーは多いのでは?
リリースには明言していませんが、ヴァレオは小型2輪EV用パワートレインを開発したものの、自社が2輪製造業に進出することは考えていないと思われます。これまでヴァレオは自社の「48Vテクノロジー」を用いてファミリー用プラグインハイブリッド車、2人乗り都市型EV、6人乗り自動運転シャトルバス、ICE125cc相当のEVスクーターなどの試作車を作ってきましたが、あくまでもヴァレオが担うのは48Vシステムのサプライヤーとしての役目であり、自らがメーカーになることは志向してはいません。
ヴァレオは48ボルトのE-バイク用ドライブトレインを発表したときのリリースに、ヴァレオが目指すのはE-バイクに搭載する電気ソリューションを提供することで、E-バイク自体を製造することではない、と明記しています。小型2輪EV用パワートレインについても同様に、多くのメーカーが採用しやすい価格と性能を両立した"ソリューション"の提供をするのが目的なのでしょう。
48Vシステムの優位性・・・とは?
ところで、なぜヴァレオは既存のハイブリッド車やEVで広く使われている60V以上の高電圧ではなく、低電圧の48Vシステムを軸に据えているのでしょうか? 大きな理由のひとつは、コストを廉価に抑えることができる・・・からです。
60V以上の高電圧システムは、危険性排除の観点から絶縁システムを施すことが法律で義務つけられていますが、低電圧の48Vは電線の周囲を特に保護する必要がなく、自動車電装で広く普及している12Vと同様に扱うことができます。そのため、48Vシステムは絶縁部材を省けるので、高電圧システムより軽量かつ安価で提供しやすいのです。
極力電圧を高めにして、電流を少なくすることで発熱を抑える・・・というシステム設計の考え方もありますが、ヴァレオは低電圧な48Vシステムでコストを抑えつつ、共通のアーキテクチャで構築されたハイブリッドシステムやフル電動ソリューションを提供することで、小型のハイブリッドやバッテリーEV、そして2輪EVやE-バイクを安価に作りたいメーカーの期待に応えることを狙っているといえます。
車体は作れるけど、資金的にパワートレインまで自社開発・製造するのは難しい・・・という2輪EVのスタートアップ企業にとっては、ヴァレオの48V小型2輪用パワートレインはとても魅力的な「製品」になるのではないでしょうか? 今後のヴァレオの小型2輪用パワートレインの発展に、期待しつつ注目していきたいです!