スノーモービル、PWC=パーソナルウォータークラフト(ジェットスキーなど)、そしてサイドバイサイド(ATV)などのレクリエーション系パワースポーツの推定市場規模は、400億ドル≒4兆5,000万円とかな〜り大きなものです。日本の2輪メーカーも参入している分野ですが、2050年カーボンニュートラルに向けてこれらパワースポーツの"道具"にも、電動化の波が押し寄せているようです。

1億4,600万ドルの投資が示す、電動化への大きな期待!?

2021年3月、カナダ・モントリオールに本拠を置く新興企業のタイガ・モーターズは、当時まだ1台の電動スノーモービルも生産していないにも関わらず、資本家たちから1億4,600万ドル≒165億7,584万円の資金を手にしました。

そして当時29歳の共同創業者兼最高技術責任者であるガブリエル・ベルナチェスが率いるタイガは、同年の12月に世界初の量産電動スノーモービルの製造を発表し、今年から納入を開始することを予定しています。

2021年暮れ、最初の量産仕様電動スノーモビルを完成を祝う、タイガのスタッフたち。カナダ政府の最終承認を得た後、タイガの電動スノーモービルは2022年初頭からデリバリーを開始する予定です。

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カナダのボンバルディア(現在のBRP)によってスノーモービルが製品化されたのは世界大恐慌後の1930年代のことですが、戦後の1959年にボンバルディアが近代スノーモービルのルーツ的モデルである"スキードゥー"を売り出すと、厳冬期には交通アクセスが遮断されてしまい陸の孤島化していた北米大陸の一部地域で大歓迎されました。そして今日、スノーモービルは全世界で年間12万台以上、北米だけでも年間約9万4,000台が販売されるほど、広く普及しています。

その歴史の大部分で、スノーモービルの動力として最も活躍したのはICE(内燃機関)の2ストロークでした。軽量で厳冬期の始動性に優れるなどの点が2ストロークが好まれた理由ですが、自動車やモーターと同じように、次第にスノーモービルにも"環境に優しい"ことが求められるようになった風潮を受け、21世紀に入ってからは2ストロークより環境性能で有利な4ストロークエンジン採用車も普及していくことになりました。

ヤマハの最上級機種、VKプロフェッショナル Ⅱ EPSは、4ストローク3気筒1,049ccを搭載。価格は157万8,500円(税込)です。日本の2輪メーカーでは、かつてホンダとカワサキもスノーモービル市場に参入していましたが、国産初(1968年)のSL350以来、ずっとスノーモービルを作り続けているのはヤマハのみ・・・です。

www.yamaha-motor.co.jp

また各メーカーは、2ストロークに燃料噴射技術などを盛り込むことで、NOX(窒素化合物)排出量を減らすなどの努力をしています。しかし、2ストロークのスノーモービルが排出するNOXやHC(炭化水素)の平均的な規制値は、自動車のそれの843倍!! にも及びます。

タイガのG.ベルナチェスは、2ストローク、4ストロークの排出有害物質の平均を考慮すると、スノーモービルを1台電動化すれば、40台の自動車を無くしたことに相当する・・・と、電動スノーモービルの"クリーン"さをアピールしています。

2015年設立の新興企業であるタイガが、最初に商品化に成功!!

排出ガスの問題だけでなく、ICEの発する排気音などの「騒音問題」もスノーモービルの大きな技術的課題ですが、これらを解消するアイデアとしてのスノーモービル電動化は、もちろんタイガだけでなく大手メーカーたちも考えていました。

業界大手で、2輪の分野ではインディアンブランドを擁するポラリスは、2020年9月にアメリカのゼロ モーターサイクルズとサイドバイサイドとスノーモービル開発に関する10年間のパートナーシップ契約を締結。2025年までに各製品の電動版を提供することを目指す・・・と発表しています。

またポラリスは早くも2011年に小型商用EVメーカーのグーピルと、公道乗用EVメーカーのGEMを買収。その4年後にはブラモ・エレクトリック・モーターサイクルを買収し、レンジャーEVというポラリスの電動サイドバイサイドにその技術を活用。そして2016年には、電動商用車&産業車メーカーのテイラー-ダンを買収し、各製品の電動化への地ならしを着々とすすめています。

パワースポーツ業界大手のポラリスは、2020年9月に2輪EVメーカーのゼロ モーターサイクルズとの提携を発表しました。傘下の2輪ブランドのインディアンも、将来電動化されることになるのかもしれません?

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しかし、実際に電動スノーモービルの商品化を最初に手掛けることになったのは、カナダ・モントリオールの名門校マギル大学で出会った、G.ベルナチェス、サム・ブルノー、ポール・アシャールら3人の若者が興した新興企業のタイガでした。このストーリーは、アメリカンドリーム・・・もといカナディアンドリーム的な、なんとも夢を感じさせるものです。

大手メーカーも本気になって、タイガを追従することになるのでしょう・・・

工学部に属した3人は、環境に優しい設計を競う「クリーンスノーモービルチャレンジ」というコンテストに挑戦。見事、2013、2014年のゼロエミッション部門で優勝しました。そして・・・純粋に技術の追求を楽しんでいた彼らにとっては想定外のことでしたが、彼らのもとにスキーリゾートやツアー会社から「電動スノーモービル購入希望」のオファーが多数届いたことが、彼らの大きな転機となったのです。

2015年の卒業後、テスラやフォードの誘いを断った彼らは、地元ビジネスマンがくれた小切手の資本金にタイガを設立。なおタイガとは、カナダ北部に広がる針葉樹林にちなんだものです。2017年には最初のプロトタイプが完成。深い雪のなかでスタックしたとき、ライダーが人力で動かして脱出できるように「軽量」に作ることがスノーモービル設計の"肝"ですが、重たいバッテリーの存在は電動化の大きなネックでした・・・。一方、標高1万フィート≒3,048mで出力が30%低下するICEスノーモービルに対し、標高の影響が皆無なのは電動スノーモビルの性能面のアドバンテージでした。

タイガの電動スノーモービルは、ユーティリティモデルの「ノマド」(写真)、バックカントリーモデルの「エッコ」、クロスオーバーモデルの「アトラス」の3タイプがラインアップされます。

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30分の充電で95マイル≒152.9km走破・・・というのがタイガのスペックですが、航続距離については燃費4〜5km/ℓで200km以上走れるICEスノーモビルにはかないません。しかし、多くの既存のICEスノーモービルユーザーが1日で走る距離は、タイガの航続距離でまかなえるともタイガは考えています。

また一般的なICEスノーモービルよりタイガは3,000〜4,000ドル≒34万2,700〜45万6900円ほど高価ですが、ガス代やオイル交換などの維持費は電動の方が大幅に節約できるため、2年ほどの使用で価格差を埋めることは可能、とも説明しています。

電動スノーモービルを求める声は少なくなく、すでにタイガは6大陸45カ国以上からの注文を受けているそうです。そして自社製品のユーザーのために、カナダに充電ステーションのインフラ整備を開始しており、2025年までにその数を1,000以上にすることを目標にあげています。

WORLD FIRST ELECTRIC SNOWMOBILE in the BACKCOUNTRY

youtu.be

話はさかのぼって・・・2021年3月、タイガが株式公開の予定を発表したその1ヶ月後、世界のスノーモービルの半分以上を販売する最大手のBRPは、スノーモービル電動化技術開発に3億ドル≒346億円を投資することを発表しました。

2019年2月にBRPはアメリカの倒産した2輪EVメーカー、アルタ・モータースの特許や資産の一部を取得。同年3月には、2026年度末までにPWCのシードゥーなどの電動化を達成するという目標をあげています。そのときは同社のスノーモービル、"スキードゥー"の電動化には触れませんでしたが、タイガの登場によりBRPも"本気"になった・・・ということなのでしょう。

電動PWC、電動サイドバイサイドも手掛けるタイガ

さらにタイガは、「オルカ・カーボン」という電動PWCを開発しており、そのプレオーダーを受け付けています。また、まだその姿は明らかになっていませんが、電動サイドバイサイドについても開発中であることをタイガは明かしています。

120馬力、最高速90km/h、航続距離50kmというタイガの電動PWC「オルカ・カーボン」。すでに2,600人以上の顧客が500ドルのデポジットを支払い、市販版の完成を待っているそうです。

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雪、水、不整地と、自然のなかで楽しむのがスノーモービル、PWC、サイドバイサイドなどパワースポーツの醍醐味ですが、自然に悪影響を与える有害物質を排出する乗り物を楽しむことに、心理的にストレスを感じるユーザーも少なくないでしょう。そう考えると、使用時はゼロエミッションな電動のパワースポーツ系乗り物は、一部の既存ユーザー、そして今までこの分野に関心がなかった新規層にも、広く受け入れられる可能性が高いのかもしれません。