近頃、トヨタ、カワサキ、ヤマハなどの大メーカーが、水素を燃料にするICEを開発するニュースが巷をにぎわせています。電動2&4にアレルギー反応? をしめすタイプの趣味人にとっては、カーボンニュートラル時代もICE搭載車を楽しめる希望がわく話題ですが、はたしてホントに、私たちが水素燃料ICE搭載車を趣味の対象として、楽しむことができる未来はおとずれるのでしょうか・・・? 

カーボンフリー時代に、水素燃料が一番適しているのは「飛行機」!?

オランダのライデン大学のジョー・ヘルマンス教授は、論文のなかで化石燃料の代わりに水素燃料が適している輸送機関として"飛行機"を推しています。

電気モーターの力だけでプロペラを回して空を飛ぶ乗り物については、2050年までに全製品のゼロエミッション化を目指しているロールスロイスなどのメーカーが開発していますが、大型旅客機や大型輸送機に採用されているターボファンやターボプロップのような役割を、電気モーターで代用することは技術的に難しいです。

ゆえに、ターボファンやターボプロップ飛行機に使い続ける需要は、カーボンニュートラルの時代にもなくなることは考えにくく、これら動力源をカーボンニュートラル時代にも使うための手段として、水素燃料が脚光を集めているわけです。

ヘルマンス教授の論文によると、化石燃料の代替手段として水素燃料が飛行機に適している理由に、既存の航空機燃料同様に液化水素燃料と取り扱うのが専門スタッフだけなので安全性を担保できること、航空機燃料より液化水素が軽量であること、そして大型旅客機は主に外気温が低い高高度を飛ぶため液化水素をマイナス253度に維持することが地表よりも容易になる・・・などをあげています。

2035年までに、ゼロエミッションの民間航空機を市場投入することを目指しているエアバスは、水素燃料航空機の開発を進めています。搭載されるのはターボファン(左上)とターボプロップ(左下)、そしてハイブリッド水素ターボファン(右)の3タイプなります。

www.airbus.com

大手航空機メーカーのエアバスは、2035年に民間市場に水素燃料航空機を投入することを目標に、水素技術開発に励んでいます。エアバスの想定する水素技術の活用法は、改良されたターボファンやターボプロップエンジンを水素燃料で動かしたり、その補完推力として水素燃料電池で発電した電力で駆動されるモーターを使うハイブリッド方式がまずひとつ。

そしてもうひとつは、水素をeフューエルの材料として使う方法です。再生可能エネルギーで作った水素をCO2と結合させることで、温室効果ガス排出が正味ゼロの燃料を航空機用に作るやり方です。なおエアバスは2025年までに、「水素技術の最適な組み合わせについて、必要な決定を下すことを期待」と述べています。

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川崎重工業も、水素燃料で飛ぶ航空機の研究を行なっています!

また川崎重工業も航空機メーカーとして、2030年を目処に水素燃焼向け後期行きエンジン燃焼器の実証を目指し、水素航空機の研究を進めています。

先述のとおり、ヘルマンス教授は化石燃料の代替として水素燃料を使う場合は飛行機が最適と論文に記していますが、それは開発の容易さを保証するものではもちろんありません。水素燃料をつかう水素燃焼器、液体水素燃料タンクおよび供給システム、そして機体レイアウトなどの設計は、技術的に非常に難しいものです。

川崎重工業の水素航空機イメージ図。機体両側面の大きな膨らみが外観の特徴ですが、この部分はジェット燃料比で4倍の大きさになる水素燃料タンクのスペースです。

meti-journal.jp

高高度の外気温の低さは、マイナス253度の液化水素を維持することにはプラスになりますが、それでも極低温に耐える軽くて丈夫な燃料タンクを、ジェット燃料に比べて体積4倍のサイズでレイアウトしなければいけないことは、技術的には非常に難しいです(なおエアバスも水素航空機の水素タンクがかさばることから、従来の航空機と外観が変わる可能性があることについて言及しています)。

また「水素推し」勢の企業・団体はあまりそのことに言及しませんが(苦笑)、水素を燃料として燃焼させると、排出されるのはクリーンな水・・・だけではなく、空気中に窒素が存在するゆえに有害な窒素酸化物=NOxも出てしまいます。その対策も、水素を燃焼用の燃料として使う上で無視できない課題に違いありません。

ともあれ、もしも世の中の大型航空機のほとんどが、水素を燃料にして空を飛ぶ時代が訪れたら・・・世界の最終エネルギー消費に占める輸送部門の比率は28%前後ですので、そのうちの大型航空機分はかなり"クリーン"にすることができるわけです。2&4輪業界ではカーボンニュートラルへの道はEVこそが最適解!! と主張する声が大きいですが、電気モーターでは力不足というジャンルにおいては、水素の可能性に期待を寄せる業界もあるわけです。

"水素"インフラが世界に浸透することが、水素燃料車普及の絶対条件

冒頭に記したとおり、トヨタ、カワサキ、ヤマハが水素燃料のICE開発に励んでいたり、経産省が2019年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定していたり・・・という事実から、官民ともに日本は"水素社会"実現に前のめりになっている・・・というイメージを持つ人は多いでしょう。

しかし、2017年に世界各国の大手企業が結集して「水素評議会」を設立し、各国の政府・業界・投資家のコラボレーションを促進させることに注力していることが示すとおり、アメリカ、イギリス、EU諸国、オーストラリア、中国、韓国など、カーボンニュートラル戦略のなかに水素技術を取り入れている国は多いです。

ハイドロジェンカウンシル=水素評議会は、2017年1月7日に開催されたダボス会議(世界経済フォーラム)で発足しました。BMW、ダイムラー、ホンダ、トヨタ、カワサキ、シェル、トヨタ、トタル、エアバス、マイクロソフトなどの運営グループ、NGK、シェブロン、マーレ、コマツなどの賛助会員、そしてバークレイズやSMFG(三井住友フィナンシャルグループ)などの投資家グループで構成され、世界20カ国以上の123の大企業がその名を連ねています。

hydrogencouncil.com

水素を燃料とする乗り物(ICEV、FCV、航空機など)を作っても、当然のことながら世界各国に水素インフラが整備されない限りは、それら乗り物製品が世界市場で販売され、普及することはあり得ません。インフラの規模としては、現在のLNG(液化天然ガス)のサプライチェーンくらいに、世界的に発展する必要がある・・・というイメージでしょうか? 

つまり、世界中に水素パイプラインが整備されたり、陸海路の水素輸送が確立されたり、水素発電や貯蔵プラントが世界中に建設されたり、世界各地に水素ステーション網が敷かれたり、一般家庭のオフグリッド電源として水素が活用されたり・・・と、それくらい水素が身近になることが、水素を燃料とする2&4を一般庶民が趣味として楽しむ環境作りの、最低条件になると思われます。

もっとも水素インフラが世界中に整備され、水素を燃料とする2&4を私たちが楽しめる未来が到来したとしても、その主役となるのはICEよりはるかに効率で優れるEV技術を取り入れたFCV(燃料電池車)になるのでしょう。

水素の道・・・を意味する社名が与えられた「ハイヴィア」は、フランスのルノーとプラグパワー社が50/50の出資で設立した合弁会社です。今年6月の発足から、早くも年内のうちに3種類のFCVプロトタイプを公表。2022年からの欧州市場での販売を計画しています。

www.hyvia.eu

水素評議会の「ハイドロジェン フォー ネット ゼロ」というレポートでは、水素は今世紀半ばまでに最終エネルギー需要の1/5以上を提供し、累積80Gt(ギガトン)のCO2を低コストで削減することが可能な、1.5℃気候シナリオを達成するために不可欠なソリューションと説明しています。

また、今後10年間で再生可能な低炭素水素の世界需要は50%増加する可能性があり、2030年には、イギリス、フランス、ベルギーが排出するCO2の総量に相当するCO2排出量を削減することができる・・・ともレポートには記されています。

しかし、その"足がかり"を作るには、生産、インフラ、最終用途を今すぐ大幅に拡大する必要があり、官民による連携をより密接なものにして2030年までに投資を4倍! にする必要がある・・・ともレポートには記されています。つまり投資や資金援助の規模をこの10年の間、前倒し的に拡大することで水素のコストを低下させ、普及させていかないと2050年の気候変動対策目標を達成することは難しいわけです。

もっと投資や資金援助を! というのは、大企業が集まって構成される水素評議会という組織の性質を考えれば当然の主張なのでしょうが、各国の政府、行政、そして市民ひとりひとりが、環境やエネルギーの問題としてシリアスに取り組まない限りは、水素技術の普及などあり得ないのも事実でしょう。その道のりは困難ですが、カーボンフリーへの方策として水素技術が発展することを期待したいですね。

さて・・・実現したら、もっぱら趣味の乗り物用途になるであろう水素燃料の2&4ICE市販車ですが、市販当初はガソリン燃料ICE車よりも割高になることが予想されます。エンジンやギアボックスなどに既存技術を応用することはできますが、ガソリンICE車と同じ航続性能を与えるとしたら単純計算で約4倍の体積になるであろう燃料タンクのレイアウト、燃料系の水素脆性や気密保持の対策など、ガソリンICE車にはない設計・品質管理の難しさが水素燃料ICE車にはあるからです。

カワサキが開発中の水素燃料ICE車のイメージ。本車側の燃料タンクに加え、左右のパニアケースも燃料タンクとして使えば、水素燃料でもガソリンICE車並みの航続距離を現時点の技術で実現できるかもしれません・・・? (※冗談で書いています)。

www.kawasaki-motors.com

なお今のところ、水素燃料ICE車の開発を公表している大メーカーは、冒頭に記したトヨタ、カワサキ、ヤマハという日本勢くらいです。その低効率ぶりやNOx対策問題などの課題を考えると、カーボンフリーへの本命テクノロジーにはならない分野ではありますが、ICEの鼓動感やサウンドといった魅力を将来の人々が楽しめるように、いつの日にか商品化されることを祈りたいです。

"グリーン水素"の普及努力こそが、水素社会実現への最強の説得材料かも?

技術的困難さやコストの問題などのほか、水素社会実現の大きなハードルになるのは「世論」でしょう。EV業界をリードするテスラのイーロン・マスクが、水素自動車を「愚か」とクサしているというエピソードは有名ですが、彼の他にも水素社会という未来はない・・・と考える人は少なくないです。

また英国の超一流メディア、BBCの12月6日の報道のように、日本の"水素社会"構想は天然ガスや石炭から取られた"ブルー水素"頼りであり、ブルー水素の"肝"である温室効果ガスの回収・貯留技術が未だ確率されていないことを不安視する声もあります。

「炭素の回収・貯留が伴う化石燃料の使用は、ただ化石燃料を使うよりも、必ず費用がかさむ。多くの国々で現在すでに、炭素を回収しない化石燃料よりも、再生可能電力の方が、値段が安くなっている」。
コーベリエル教授(※スウェーデンのチャルマース大学のトーマス・コーベリエル教授)は、再生可能エネルギーが高価だった10年前に、日本政府はブルー水素を選択したのだろうとみている。そして10年後の今、もはや合理性がなくなった計画から、抜け出せなくなっているのだろうと分析する。

事実、水素評議会の「ハイドロジェン フォー ネット ゼロ」に記されているとおり、現在使われている水素のほとんどは化石由来の"グレー水素"です。今後カーボンニュートラルに水素が貢献するだろうという世論を形成するには、"グレー水素"の割合を減らしていくとともに、"ブルー水素"と再生可能エネルギー由来の"グリーン水素"の割合を増加させていき、最終的には"グリーン水素"をメインにしていくという、理想的なロードマップどおりの道を進んでいくしかないでしょう。

水素評議会の「ハイドロジェン フォー ネット ゼロ」より。今後10〜15年の間に作られるのはブルー水素のプラントとなりますが、長期的にはグリーン水素が最も大きな供給源の座に着くと予想しています。

hydrogencouncil.com

上のグラフによると、2050年の再生可能エネルギーによる"グリーン水素"は、供給量の60〜80%・・・400〜550メガトンの水素を供給することになります。100%"グリーン水素"になった方がカーボンニュートラル的には良いと思われますが、"グリーン水素"だけの供給体制になるとサプライチェーンなどに問題が生じる可能性があるため、"ブルー水素"も相互補完的に残すのがベターということです。

2050年まで、あと28年くらいある・・・と考えるか、もう28年しかない・・・と考えるかは人それぞれでしょうが、人類の英知を結集してより良い世界を作っていくことを願いたいですね! 私たちが呑気かつ平和に、この先も2&4趣味を楽しんでいくためにも・・・。