先日のライブワイヤーのIPO=新規株式公開、そして台湾最大の2輪ブランドであるキムコと2輪EV開発のパートナーシップ締結の報は、世界中で大きな話題となりました。電動化という世の中の流れに対応すべく多くの既存2輪メーカーは大急ぎで体制を整えているわけですが、ライブワイヤーとキムコの提携は今後どのような展開を見せることになるのでしょうか?

合意に基づき、それぞれが1億米ドル≒114億2,945万円を投資!

12月13日、ハーレーダビッドソンはSPAC(特別買収目的会社)のABIC=AEA-ブリッジス インパクト コープを通じて、企業結合契約を締結したことを発表。その結果、ハーレーダビッドソンの2輪EV部門のライブワイヤー社は、新しい上場会社としてニューヨーク証券取引所にIPO(新規株式公開)することとなりました。

そしてさらに、ライブワイヤーはキムコと2輪EV開発に関するパートナーシップを結び、それぞれが1億米ドルを投資することを公表しました。なおこの事業に関する取引は2022年前半に完了する予定ですが、完了させるためには合併、株式交換、資産取得を目的として設立されたSPACであるABIC株主の承認が必要です。

取引が完了すると、キムコはライブワイヤーの4%の株式を所有。ハーレーダビッドソンはライブワイヤーの株式の74%を保有することになります。太平洋をはさんだ、米台の大メーカーによる戦略的パートナーシップが誕生したワケです。

ヨッヘン・ツァイツ(ハーレーダビッドソン会長兼社長兼最高経営責任者)
「本日の発表は、ライブワイヤーが米国で最初の上場2輪EV企業になるという歴史的なマイルストーンです。ハーレーダビッドソンの118年の血統に基づいて、ライブワイヤーの使命は世界で最も魅力的な2輪EVブランドとなり、スポーツ車の電化をリードすることです。今回の取引により、ライブワイヤーは新製品開発のための資金を調達し、市場投入モデル計画を加速する自由を得ることができます。ライブワイヤーは、戦略的パートナーであるハーレーダビッドソンとキムコの大規模な製造および流通機能の恩恵を受けながら、機敏で革新的な上場企業として運営できるようになります」

ハーレーダビッドソンとの2輪EVに関する提携・・・というと、2018年春のアルタ・モータースの一件が記憶に新しいです。わずか約6ヶ月という短い"蜜月"の末に、この提携は解消・・・。資金繰りが悪化していたアルタ・モータースは、同年10月18日に営業を停止することになりました。

今回の提携相手のキムコは、長年台湾でトップの地位を守り続けた大メーカーです。新興スタートアップ企業だったアルタ・モータースに比べれば企業としての体力ははるかに豊かですので、"アルタ・モータースの悲劇"が繰り返されることは、おそらく? ないでしょう。

新型電動2輪プラットフォームは、S2 アロー !?

ハーレーダビッドソンとキムコの提携により、具体的にどのようなプランが実行されるのかは未だ明らかにされていませんが、ひとつ考えられるのは大型スポーツ2輪EVはライブワイヤーが担い、小型2輪EVに関してはキムコが担うという、それぞれの得意分野を活かす提携です。

かつてハーレーダビッドソンは、1960年にイタリアのアエルマッキを傘下におさめ、ハーレーダビッドソンエンブレムをつけたアエルマッキ製小型車を販売。1969年にハーレーダビッドソンはAMF(アメリカン・マシン・アンド・ファンドリー)支配下に入りいますが、1974年にはアエルマッキは完全に買収されハーレーが不得手とする小型車のラインアップを補完するという関係性が続きました(1978年からは、イタリアのカジバが引き継ぐことになります)。

1960年代のハーレーダビッドソン・スプリント。アエルマッキの水平単気筒250ccを搭載するのが、この時代の小排気量ハーレーの特徴でした。

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もっとも・・・投資家向け資料によるとキムコとの2輪EVに関する提携の結実は、OEM供給でバッジエンジニアリング的な小型ライブワイヤーを販売・・・ではなさそうです。同資料によれば、ライブワイヤーは現行のライブワイヤーワンに続くミドルウェイト級の2輪EVの開発を進めており、ラインアップの拡充をまずこのクラスからスタートさせることを明らかにしています。

ライブワイヤーのこれまでの歴史を示した資料。2010〜2014年までの試作車「プロジェクト・ハッカー」、2015〜2020年までのハーレーブランドの「ライブワイヤー」、そしてブランド独立後の「ライブワイヤーワン」です。

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ライブワイヤーS2に採用される、"アロー"アーキテクチャ。

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ミドルウェイト級の2輪EVはライブワイヤーS2(システム2)と称され、採用するプラットフォームには"アロー"アーキテクチャの名が与えられています。さまざまなモデルに採用できるように、モーター、バッテリー、インバーター、オンボード充電器などを組み合わせた、モジュラー方式で構成されるのがその特徴です。

バッテリーは大容量のセルを使用し、50、100、350、そして400V以上の電圧で作動させることが可能。そして冷却方式は、空冷、液冷などさまざまな熱管理を選択できるように工夫されています。モーターに関しても、空冷または液冷が選択できるようになっており、拡張性を持たせることでさまざまなモデルに採用可能なプラットフォームにするとともに、コスト抑制効果も同時に狙っています。

ブランド最上級モデルとして、現行機種のライブワイヤーワンは継続。そして"アロー"アーキテクチャを採用するミドルウェイト級モデルとして、"S2 デル・マー"が登場する予定です。

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2020年春の投資家向け資料で紹介された、EDT600R。エレクトリック ダート トラッカー600Rを意味する車名ですが、この2輪EVも"アロー"アーキテクチャが使われていることがわかります。なお最新の投資家向け資料の"アロー"アーキテクチャには「700」という数字が付けられており、当時のコンセプトから開発が進んでいることをうかがわせます。

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ライトウェイト級2輪EVの"S3"に、キムコの技術を採用!?

そして「S2 デル・マー」の次・・・軽量クラス2輪EVのS3(システム3)は、"アロー"アーキテクチャをスケールダウンしたプラットフォームが採用される予定であり、ここで小型2輪EVの開発実績を持つキムコの技術が活用されることになります。

ライブワイヤーの製品ラインアップ拡充の予定図。S2、S3の登場後は、最新技術を駆使し、航続距離と充電性能の向上を目標とする重量級2輪EV・・・S4が生み出される予定になっています。

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なお2021年度のライブワイヤーワン(ハーレーダビッドソンのライブワイヤ含む)の販売台数はわずか387台でしたが、2026年には10万台越え! そして2030年には19万台!! に達するという・・・急成長を遂げる青写真をライブワイヤーは描いています。

今後、2輪EV市場における覇権争いは激化することが予想されますが、キムコという強力なパートナーを得たライブワイヤーがどれだけ魅力ある新製品を市場に投入することになるのか・・・引き続き注目したいですね!