最大の特徴は、ノーズからテールまで貫く「空力トンネル」!
ホワイトモーターサイクルコンセプトが生み出したWMC250EVの、最もユニークな設計と言えるのは「V-AIR」という大きな空力トンネルでしょう。
ホワイトモーターサイクルコンセプト代表のロバート・ホワイトによると、WMC250EVはベンチマークとしたスズキ隼よりも70%ドラッグ(抗力)が少なく、後輪荷重は同等で前輪荷重は5倍になるそうです。そして走行時にWMC250EVは前後2つのリニアセンサーにより前後輪の荷重を測定することが可能で、V-AIR内の空力を調整することで適正な前後輪荷重を得ることができるそうです!
量産公道用2輪EVに転用できる、空力技術開発を目指す
またWMC250EVの大きな特徴としては、速度記録車なのに車高がベッタベタに低くないことがあげられます。シート高は850mmと量産スーパースポーツ車レベルの高さですが、これは奇抜なライディングポジションで乗ることを強いる、典型的な速度記録車のスタイルにWMC250EVをしたくないという製作者の意図があります。
スーパーバイクや4輪F1で20年以上活躍したキャリアを持つホワイトとしては、WMC250EVを一般的な公道用量産2輪EVに活用できる技術を、盛り込んだ速度記録車にしたかったそうです。ハンモックに寝そべるような速度記録車のライポジは公道用量産車には不向きですが、シート高が800mm台の車体であれば、なんら違和感なく公道用のスポーツバイク、ツアラー、スクーターに与えることができるでしょう(WMC250EVのV-AIRほどの広大なトンネルを、公道用2輪EVに採用するのは難しいかもしれませんが)。
当たり前のことですが、ICE(内燃機関)車に必須の燃料タンクも2輪EVには不要です。V-AIRはハブセンターステアリングのフロントサスペンション、バッテリーとコントローラーなどを抱えるロアシャシー、そしてリアスイングアームの上に載っかるような構造になっていますが、このユニークなデザインはモーターとバッテリーのレイアウトの自由度がICE車よりも高い、2輪EVだからこそ比較的容易に生み出せたといえるでしょう。
実際に、公道用2輪EVにも使える技術・・・というこだわりは、WMC250EVのパワートレインにも見ることができます。WMC250EVには後輪駆動用に30kWのモーターと、そして前輪駆動用に20kWのホイールインモーターを搭載しています。
速度記録車がレコード更新に挑むとき、空気抵抗とトラクション不足をいかに少なくするかが成功の鍵を握りますが、前後輪駆動の2WDを採用することはグリップを稼ぐことに有利に働きます。しかし、製作者の意図としては前輪のホイールインモーターを採用したのは速度記録のためだけではなく、公道用EVにとって大事な「回生」の効率を上げる方策としても、2WDを採用することのメリットを探究しているのです。
またホワイトは、将来的には2輪EVを構成するパーツ・・・モーターやバッテリーは現在のものより小さくなると考えています。人間が跨って乗るもの・・・という2輪車の基本は不変ですから、パワートレインが小さくなると「空いた」スペースが将来の2輪EVには増えることになります。
スクーターのように収納スペースを増やしたい場合には、パワートレインの小型化は大きなメリットになりますが、走りのパフォーマンス最優先のスポーツモデルでも、トンネル状のダクトを車体に設けて、積極的に空力を有効活用するというメリットを生み出すことは可能です。
そんな未来のスポーツ向け2輪EVの可能性を探る速度記録車・・・であるWMC250EVは、今年中に時速200マイル≒320km/h突破を達成することを目標にしています。この目標は現在の合計100kW≒134hpでも達成することができる見込みとのことですが、彼らが破るべき記録・・・2020年にヴォクサン・ワットマン(367hp)を駆るマックス・ビアッジが樹立した、時速228マイル≒366.93km/hという2輪EVの速度記録を超えるためには、さらなるパワーアップが必要になるでしょう。
ホワイトモーターサイクルコンセプトは、来年に南米ボリビアの塩湖で世界記録更新に挑戦する予定とのことですが・・・その時が来たら改めて彼らのチャレンジに注目したいですね!