上白石萌歌さん主演で映画化されることで再び注目を集めている『子供はわかってあげない』。水泳部の少女と書道部の少年が偶然の出会いから恋に落ちる、甘酸っぱいストーリーですが、そこは田島列島先生、苦い大人の味わいを綺麗にまぶしてくれている佳作なのです。
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淡々と綴られる、不可思議で騒々しいストーリー

ヒロインの朔田美波(サクタさん)はなぜか急に幼い頃母と離婚した実父に会いたくなります。再婚した実母と、その再婚相手である継父ら家族とは仲良く暮らしているサクタさんなのですが、会いたいものはしょうがないんです。

サクタさんは、ふとした偶然から知り合った書道部の門司(もじ)くんの助けを借りて、実父の行方を探し当てますが、なんとそのお父さま、とある新興宗教の教祖様、しかも教団のカネを持ち逃げして失踪したという疑惑をかけられていたのでした。

困惑するサクタさん、謎の超能力?を持つ教祖様兼お父さま、そしてサクタさんを心配して右往左往する門司少年。慌ただしいひと夏が始まるのでした。

大人にはいろいろある。だけど少年少女はまっすぐ進めばそれでいい

映画化に伴い、サクタさんを演じるのは上白石萌歌ちゃん(映画では、名字ではなく名前で呼ばれるようです)。ボーイッシュでちょっと不思議ちゃん的なヒロインには最適な気がします。一昔前なら、長澤まさみさんあたりがハマり役なんじゃないでしょうか。

田島列島先生の作品には、不倫というか、結婚後の恋愛がよく描かれていると思いますが、たいていは修羅場はなく キャラクターたちの心にさまざまな形の傷跡を残しながらも、その傷の存在を隠す もしくは無視して生きている様子が見てとれます。(その意味では不倫を肯定しているわけではないけれど、ある意味生まれてしまうものはしょうがない、やむを得ないものだと諦めているような感じがします)

本作においては、一度は強く結ばれながらも破綻した愛の形(本作ではサクタさんのご両親)は、あるがままに描かれ、良くも悪くも時間が癒やしていった傷が、いまでは治癒されているけれど痕は残っている感じが見受けられます。

サクタさんは、今の両親の気持ちを慮って、内緒で実父に会いにいきますが、結局そのことは母親には知られてしまいます。でも、だからといって愁嘆場があるわけでもなく、哀しみを若干ともなった 母親の温かい理解と、申し訳なさと感謝が織り混ざったサクタさんの想いが交錯する様が描かれるだけです。

本作は、サクタさんと門司くんの 十代ならではのキラキラして後から考えると面映い恋愛を描きながら、彼らが大人の事情に少しだけ触れる様を描いています。

本題の「子供はわかってあげない」は、もちろん往年の名作『大人は判ってくれない』(1959年公開のフランス映画)のタイトルをもじったものでしょうが、わからない、ではなくわかってあげないという主張は、わかってるけどわかったふりはしない、ということだと思います。子供は案外バカじゃない、実はわかっているけど、余計な忖度をせずわからないふりをしてくれているのだと思います。そして、自分たちはピュアでまっすぐ生きることを選択してくれる優しさ。敢えて子供でいてくれる、そんな少年少女を描いた優しい作品なんです、この『子供はわかってあげない』は。